
1年半後市議に訴え、一転報告
さいたま市が、市立病院で薬剤の不適切な使用があったと指摘する内部公益通報を受けた後、1年半以上にわたって調査結果を元病院職員の通報者に伝えていなかったことが判明した。消費者庁のガイドラインは調査の進捗(しんちょく)を内部通報者に伝えるよう求めているが順守されなかった。一方、元職員が市議らに外部通報すると一転、市から「問題はなかった」と報告があったという。市は1年半、公益通報を「放置」したのか。【鷲頭彰子】
23年に書類提出
毎日新聞の取材に応じた元職員は、同病院で陣痛促進剤「アトニン」を日本産科婦人科学会の診療ガイドラインに従わずに過剰投与するといった不適切使用があったとして、2023年9月に市法務・コンプライアンス課に内部通報したと証言した。
元職員は同課とメールでやりとりし、面談後には内部通報の手続きに必要な「通報兼受付書」を提出。聞き取りに訪れた保健所関係者に資料を提出するなどして説明したが、その後、進捗状況を聞いても「調査中」としか回答が来ず、1年半が経過したという。調査が進展しないため、元職員は25年3月に市議らに外部通報した。

毎日新聞は同月末に告発文書を入手し、市保健所に問い合わせたが「調査していない。そもそもそのような資料は手元にない」と回答があった。保健所や市保健衛生総務課に関係資料の情報開示を請求したが、「職員が作成または取得しておらず、存在しない」などとして不開示となった。法務・コンプライアンス課は「事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」として資料の存否も回答しなかった。
医学的調査なし
一方、外部通報をした約1カ月後の4月28日、元職員のもとには市から突然、調査結果がまとまったので報告をしたいという連絡が入ったという。それは、毎日新聞が市保健衛生総務課に開示請求をしたのと同じ日だった。
市は調査について「保健衛生総務課の一般行政職員が行った。医療行為の適切性に関することなど医学的見地からの調査は行っていない」とし、「手続き的な面に関し、おおむね院内ルールにのっとっており、院内ルールは厚労省の指針・基準に基づき作成されているため適切と判断した」と口頭で説明したという。元職員は医学的見地からの調査がなされていない報告を不服とし、再調査の申し入れ書を市に提出した。
毎日新聞は、これまで元職員と市がやり取りしたメールの内容などから、通報が放置されていた状況を確認。内部通報から報告まで1年半以上かかった理由を市保健衛生総務課に尋ねたが、「内部告発については、あったともなかったとも言えない」としている。
消費者庁のガイドラインでは、通報を受理した後は正当な理由がある場合を除いて調査を実施し、進捗状況や結果を告発者に通知するよう求めている。公益通報制度に詳しい日野勝吾・淑徳大教授(労働法)は「公益通報者保護制度は、組織の自浄作用を促すとともに、公益通報者からの声を真摯(しんし)に受け止めて早期に不正を是正するためのもの。事案にもよるが、内部通報の調査に1年半かかったのであれば、通報者に対し、その理由を説明する必要がある。そもそも専門的知見のない一般職員がどのような調査を行ったのか、調査の在り方も問われている」と指摘した。
「制度機能せず」
外部通報を受けた市議の一人は「命にかかわることであり、医学的観点から早急に真偽を確かめるのが筋だ」と指摘。4月末で病院を退職した元職員は「保健所関係者が話を聞きに来たのは調査でなくパフォーマンスだったのか。不適切使用は、妊婦およびその胎児の生命、身体に重大な損害を与える恐れがあった行為。手続き上の違反の有無を一般行政職員が調査しても無意味。内部通報の制度が機能していないのは問題だ」と憤っている。
市立病院は、外部通報の内容やガイドラインに反する薬剤の投与の有無などについて尋ねた毎日新聞の取材に対し、「個人情報に該当するので、個別の事案についてはお答えできない」と回答した。
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