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<脳を若く保つには、頭を使うより体を動かせ? 認知症予防の常識をくつがえす研究結果について>
長寿遺伝子発見者による、最新研究と衝撃の提言書『SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる』(CEメディアハウス)の第8章「時計を止める」より一部編集・抜粋。
重要なのは寿命(ライフスパン)ではなく、健康寿命(ヘルススパン)...。運動、地中海食、よい睡眠について。
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頭も心も冴えたままで
有酸素運動と食事は、心と脳の働きをスッキリと健康に保つ効果があり、さらに良い効果もありそうだ。運動が体に良いことはだれでも知っているが、脳にどれぐらい良いかはわかっていなかった。
最近の研究によれば、認知機能の低下や認知症の予防という点では、頭を忙しく働かせるよりも、運動のほうがずっと重要だという。また栄養と認知力の関係についても、多くのことがわかってきている。
疫学者で臨床栄養士のクレア・マクエヴォイは、食事が加齢とともに認知力にどう影響するか調べている。とくに地中海食や、心臓に良い他の食習慣に注目している。心臓に良いものは脳にも良いことがしばしば証明されているからだ。
彼女は「健康と退職に関する研究」や「若年層における冠動脈疾患のリスク研究」の一環として地中海食を研究したとき、高齢者も若者もこの食事をする人は認知力がすぐれていると気づいた。
別の研究では、若いときに地中海食を食べると、中年になっても認知機能を保てることがわかっている。
これらや同様の研究によれば、食べたものが一生のあいだ、脳の機能に累積的な予防効果を持つようだ。もしそうなら、人生を通して正しい食事をすることで、認知低下の発症を遅らせ、高齢期の認知症のリスクを減らせるだろう。
地中海食のような良質の食事には抗炎症作用や抗酸化作用があり、これらの作用も高齢期の認知症やアルツハイマー病の予防に役立っている。
しかし、この探求はまだまだ終わっていない。脳の健康を一生保つために、最適な栄養と食品の組み合わせを勧められるようになるには、まだ多くのことを発見したり学んだりする必要がある。
研究者たちはまた、睡眠と脳の健康の関係も調べている。精神的健康と睡眠の関係は、運動や栄養との関係と同じく、はっきりしていない。
この分野は理解されはじめたところだ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の精神神経科医クリスティン・ヤッフェたちは、睡眠障害が認知症にどう影響するかを研究している。
医学雑誌『スリープ(SLEEP)』で発表された研究によれば、しょっちゅう眠りが妨げられる人は、よく眠れる人より、アルツハイマー病などの認知機能障害のリスクが1.68倍大きいという。
ただし、睡眠障害が認知低下を引き起こしたのか、それとも睡眠障害が認知低下の症状なのかは明らかではないと慎重に指摘している。
しかし2019年に雑誌『サイエンス(Science)』で発表された研究が、さらなる事実を示している。
ディヴィッド・M・ホフマン医師とブレンダン・P・ルーシー医師は、睡眠不足と、アルツハイマー病に関与する2つのタンパク質の増加との関係を研究していた。
すると、そのうちの「タウ」というタンパク質が、重度の睡眠障害の成人に非常に多く見つかったのである。
また睡眠障害の成人についての別の研究報告は、彼らの脳内に多くのアミロイドβタンパク質(A‒beta)があると指摘している。このタンパク質はアルツハイマー病の患者の脳にも過剰に見られるものだ。
ある研究では、8人の成人について、ふつうに眠った夜と、36時間眠らずに過ごしたときのようすを観察した。
脳脊髄液を検査すると、睡眠不足の被験者はタウタンパク質(アルツハイマー病のバイオマーカー)が51.5%増えていた。これは、マウスでの実験結果と同じである。
睡眠不足のマウスには、よく眠ったマウスの2倍のタウがあった。十分に睡眠を取らないとタウもアミロイドβも増える。
そこで研究者たちは、中年期の睡眠障害を改善し、よく眠れるような治療法を見つけることで、アルツハイマー病のリスクをどれぐらい下げられるか研究している。
わたしたちが眠っているとき、脳は過剰なタンパク質などのゴミを処理しているらしい。だから十分な睡眠を取らないと、ゴミ処理システムの働く時間が足りなくなるのかもしれない。
睡眠と精神的健康の関係はまだ研究中だが、高齢者の場合、ぐっすり眠れば心理的に元気になることがはっきりわかっている。でも睡眠時間と心理的健康のあいだに同じような関係は見られない。
だから年齢とともに眠る時間が短くなっても、日中に気分がよければ、短い睡眠時間で問題ないのだろう。
ただし、よく眠れなくて、日中の行動に影響したり、イライラや不安を感じたりするなら、主治医に相談したほうがいい。
ニール・バルジライ (Nir Barzilai)
1955年生まれ。アルバート・アインシュタイン医科大学教授。同大学老化研究所設立者。ポール・F・グレン老化生物学研究センター、およびアメリカ国立衛生研究所(NIH)ネイサン・ショック・センター加齢基礎生物学部門のディレクターも務めている。専門は内分泌学。100歳を超える長寿家系を調べ、ヒトの長寿遺伝子を世界で初めて発見した。長寿研究の世界的権威として、全米老年問題研究連盟(AFAR)「アーヴィング・S・ライト賞」など数々の賞を受賞している。本書が初の一般書となる。
『SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる』
ニール・バルジライ/トニ・ロビーノ[著]
牛原 眞弓[訳]
CEメディアハウス[刊]
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