コメ店では仕入れ価格が例年の1.5~2.5倍に

東京・目黒区にあるコメ店では、北海道から九州まで風味や食感の異なる60銘柄以上のコメを取り扱っていて、8月中旬からは新米の販売も始めました。

ことしは仕入れ価格が例年の1.5倍から2.5倍と高くなっていて、8日に店頭に並べられた新米のうち最も高いものは1キロあたり1360円、5キロでは6800円で販売されていました。

このため、消費者の買い控えが見込まれるとして、例年のこの時期は7つほどの銘柄の新米を入荷するところ、5つに減らし、さらに、入荷する量も例年の半分ほどに抑えているということです。

店では、高値の背景にはJAが生産者に仮払いする「概算金」が引き上げられたことがあるとみていて、現在の取引先のうち、4分の1ほどは価格の交渉が折り合わず、仕入れ自体を断念せざるを得ない状況だということです。

コメの販売店「スズノブ」の西島豊造社長は「このまま高騰が続けば、消費者が外国産米に流れたりコメ離れをしたりして、コメの価格が暴落することもありえる。店としては高価な銘柄米の在庫を抱え込むリスクを考えると扱う銘柄や量を制限せざるを得ず、頭を抱えています」と話していました。

JAの「概算金」各地で引き上げ

「概算金」は各地のJAが生産者からコメを集める際に仮払いするもので、生産者は受け取ったお金をよくとしの生産に必要な苗や肥料、それに農機具の購入などにあてています。

JAグループは国内最大の集荷団体のため、概算金の水準はほかの業者がコメを仕入れるときの指標にもなっていて、コメの販売価格にも影響を与えると言われています。

NHKがJA全農の全国の県本部などに先週までにことしの概算金の額を取材したところ、23の道と県の状況がわかりました。

それによりますと主力品種について、新潟や秋田、それに茨城など5つの県で60キロあたり3万円台となっています。

さらに北海道や山形、それに栃木など16の道と県は2万円台後半を2つの県が2万円台前半を生産者に提示しているということです。

このうち生産量が全国一の新潟県では、JA全農にいがたが一般の「コシヒカリ」に去年の同じ時期より76%高い3万円を、魚沼産の「コシヒカリ」に66%高い3万2500円を支払うことにしています。

また、秋田の「あきたこまちR」と茨城の「コシヒカリ」、それに熊本の「ヒノヒカリ」がともに3万円となっています。

このほか、北海道の「ななつぼし」は2万9000円、島根の「コシヒカリ」は2万8400円山形の「はえぬき」は2万8000円などとなっていて、全国的に2万円台後半を提示するところが多くなっています。

取材したJA全農の県本部などからは、肥料や農機具などの価格が上昇しているほか、猛暑などによる品質の低下や収穫量の減少が懸念されることから、民間業者に買い負けないためにも概算金を引き上げたという声が多く聞かれました。

コメが消費者の手元に届くまでには、この概算金の額に加えて、物流費のほか卸売業者や小売業者の利益などが上乗せされます。

専門家「ことし5キロ4000円台が一般化すると思う」

コメの流通に詳しい流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員は、JAが生産者に仮払いする「概算金」が60キロあたり3万円だとすると、小売価格は5キロ税込みで4500円を超える水準になると指摘しています。

概算金の引き上げについて折笠主席研究員は「気温の高さや水不足、カメムシの大量発生で生産の不安が大きいうえ、去年、コメの取り合いが発生していたので大手の外食チェーンをはじめ、コメをある程度使う業者が先に契約を進めていたところもあり、そもそも売り先が決まってないコメも少なめで取り合いが発生している」として、産地で業者どうしの競争が激しくなっていることが背景にあるとみています。

そのうえで今後の価格の見通しは「コメの相場はだいたい新米のときに決まるので、ことしのコメは5キロ4000円台というのが一般化すると思う。ただ、これから東北や北海道といった規模の大きな産地の収穫が終わってみて、市場に出回り量が多くなり、コメが余ってきたという感じになってくるともう少し値段が落ち着いてくる可能性は十分ある」と話しています。

小泉農相「冷静に見る必要」

JAが生産者に仮払いする「概算金」を引き上げる動きが相次いでいることについて、小泉農林水産大臣は記者団に対し、「概算金やいまの新米の価格だけで新たなシーズンの価格がこのまま高止まりをするということも言えないのではないか。1年間トータルで冷静に見る必要がある」と述べました。

飲食店 仕入れ価格高騰に苦慮も値上げせず

栃木県内では8月から米の収穫が始まっていて、宇都宮市のレストランでは契約する農家から新米60キロが届き、9月4日から店での提供が始まりました。

この店では、コメ不足を背景に去年、新米の仕入れ価格が2割ほど上がり、ことし6月には定食のメニューを100円値上げし、無料だったごはんの大盛りも50円に変更しました。

ことしの新米は去年に比べて仕入れ価格がさらに2割ほど高いということですが、今のところ値上げはせずに提供することにしていて、電気代の節約などでしのいでいくとしています。

訪れた客は「新米はやっぱりおいしいです。この店は普通盛りでもごはんの量が多いですが、値上げをしないというのでありがたいです」と話していました。

店主の今泉知明さんは「新米はみずみずしさが違いますし、客も『待っていた』という反応です。仕入れ価格の高騰は大変ですが客のためにもなんとか頑張りたいです」と話していました。

都内のスーパー「入荷めどたたず」

販売されている令和6年産のコメ

板橋区のスーパーでは例年、この時期はまだ新米の価格が高いため、前年に収穫されたコメの販売を続け、流通量が増え、価格が落ち着く11月ごろから新米の取り扱いを始めています。

しかし、ことしは新米の価格が高騰し、11月ごろになっても例年のようには価格が下がらない可能性があるとして、入荷のめどがたっていない状態だということです。

スーパーによりますと、販売価格が4000円台前半か、それ以下でないと買い控えにつながるため、新米の価格が高い水準で推移した場合、ことしは仕入れ自体を行わないことにしています。

スーパー「マルヤス」の松井順子代表は、「新米を楽しみにしているお客さまもいるので、できるだけ早く仕入れたいですが、現状ではコメの値段が下がる見込みはないので、ことしは販売できないのではないかと不安です」と話していました。

「消費者のコメ離れ」懸念の声も

ことしの新米の価格をめぐって9月4日、全国の生協が加盟する日本生協連=日本生活協同組合連合会は、JA全農=全国農業協同組合連合会との間で意見交換を行いました。

この中でJA全農の担当者は、去年は必要なコメの量を確保できなかったことを踏まえてことしは集荷に力を入れているものの、水不足や猛暑の影響の懸念から産地で新米の集荷競争が起きているなどとして、新米の価格が高くなっていることに理解を求めました。

これに対して日本生協連の担当者は新米の価格が高いため、例年より売れ行きが悪く、割安な備蓄米の引き合いが強いと説明し、新米価格の高止まりが続けば消費者のコメ離れにつながると懸念を示しました。

日本生協連の高杉康彦農畜産部長は「コメの価格が倍になっているので、それを消費者が許容できるかはそれぞれ人によって違う。適正な価格でコメを提供していくことを今まで以上に考えなければいけない」と話していました。

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