100面超のラグビー場 国内屈指の合宿地と落雷
ラグビー協会が落雷対策に着手 なぜ?
システム導入ですぐに実例も
強豪チームも対策に賛同
連絡のスピードと避難場所が課題に
毎年夏に全国各地からチームが集まって合宿を行う国内屈指の合宿地です。菅平高原の標高はおよそ1300メートル。夏場は大気が不安定になり、発達した積乱雲が雷を生み出します。
さらに菅平のような高原は、暖められた空気が斜面を上昇することで積乱雲が発達しやすく、落雷が起きやすい地形です。
こうした中、日本ラグビー協会はことしから菅平高原で新たな落雷対策を行っています。
背景には、相次ぐスポーツ中の落雷事故があります。去年4月には宮崎市のグラウンドで高校生18人が搬送される事故が起きました。ことし4月には奈良市の学校のグラウンドに雷が落ち、部活動をしていた生徒6人が病院に搬送されました。ラグビー中の落雷による事故の記録はほとんどないということですが、事故が起きたサッカーや野球など、グラウンドを使う競技と条件は変わりません。スポーツ中に相次ぐ落雷事故と菅平高原の地形的な特性から、ラグビー協会は対策を急ぐことにしたのです。
ことし、菅平高原の中心地の観光協会など2か所に新たに導入したのが雷の観測を独自に行う企業の最新のシステムです。このシステムでは落雷が起きた場所をリアルタイムで地図上に表示できるほか、72時間の雷の発生確率などもパソコン上に表示できます。菅平高原では、半径20キロ圏内に落雷が発生した場合「警戒エリア内に雷が発生しました」とアラートが鳴るように設定しました。
菅平高原の100面を超えるグラウンドは基本的にホテルや旅館などの宿泊施設が管理しています。警報が鳴った場合、観光協会が速やかにグラウンドを管理する宿泊施設にLINEで連絡。それを受けた担当者が監督など各チームの管理者に伝達する仕組みにしました。
導入後、現場の人たちが効果を実感する出来事が起きました。7月26日の昼前、警報音が鳴りました。
そのときはまだ雷の音は聞こえず、雨も降っていなかったといいます。
菅平高原温泉ホテル 桑田雅之さん「ふだんは雷の音がして、空気が冷たくなる変化があって、それから雨が降る、そして雷が来るっていう、その順番です」
「雷雲が昼頃、大松山の裏側を通りそうな予報です。雷にご注意ください。特にグラウンド部会関係の方」
連絡を受けた桑田さんは、すぐに合宿中のチームに連絡を取り、早めに迎えに行きました。その後、雨が降り、雷が鳴りだしたのです。
菅平高原温泉ホテル 桑田雅之さん「新しいシステムにどういった効果があるのか、少し半信半疑ではあったんですけど。落雷が来る1時間くらい前に通知が来て。これで本当に来るのかなと思っていたら、実際に雷が来たので、早く先生方に連絡することができてすぐに対応できました。なので、やはり効果はあるかなと感じました。連絡がなければ、変化は気付きませんでしたね」
同じ日、システムが設置されている「サニアパーク」では中学生の大会が行われていました。
警報音を聞いてすぐに試合を中断。およそ1時間後に安全が確保されるまで、サニアパークの管理センター内に避難してもらう対応を取りました。
菅平サニアパーク 下平哲所長「雷雲と雷が遠くのほうで鳴りだして、そこでシステムの画面を見たところ、こっちのほうに向かってきそうだっていうのがわかったので、関東ラグビー協会の方と相談して『じゃあ1時間、再開まで時間を持ちましょう』ということができるようになったので、だいぶ管理はしやすくなりましたね」
高校ラグビーの強豪、桐蔭学園。8月に2回に分けて菅平高原で合宿を行っています。10年以上前から藤原秀之監督は学校とも相談の上で独自に落雷への対策を行ってきました。
その1つが落雷による電磁波を感知して音を出す機器です。合宿中などに持ち歩き、落雷に注意を払ってきました。毎年夏に菅平を訪れる藤原監督も、この地域の雷の多さを感じていたためです。
桐蔭学園 ラグビー部 藤原秀之監督「菅平は特に昼すぎ、午後の時にやはり雷が起こりやすいので、機器を購入しました。雷が近づいてくるとピピピピピーって音が鳴るんですよ。早く建物に入らないといけないので、早い段階でジャッジしないといけないということです」
これまで自身が持ち歩いていた機器よりも精度の高い最新のシステムが菅平に導入されたことし。藤原監督は、そのシステムを有効に活用しようと、宿泊施設の担当者と監督、コーチのあわせて4人で連絡を取り合うグループチャットを作成しました。
「雷連絡はこちらから送ります」
藤原監督「僕1人だとスマートフォンをポケットにしまっていてわからないこともあるので、2人のコーチにも入ってもらって誰かが気付くように」桐蔭学園が宿泊する 菅平高原温泉ホテルの桑田さん「とにかく伝えることを優先したいと思います。音は切らないようにして。できるだけ音に気が付くように」
桐蔭学園 ラグビー部 藤原監督「すごくいいことだと思いますね。特に菅平は建物がグラウンドのそばにないことが多いです。宿舎がすぐそばにあるならいいですが、そうでない宿もあります。そういう意味ではすごく有効なことだと思います。かつて、避難したあとに地面に雷が走ったようなことも経験しました。事故があったら大変なのでわれわれも早く反応するようにしています」
対策を開始しておよそ1か月。運用を行う中で見えてきた課題があります。100面を超えるラグビー場のすべてに、すぐ避難できる場所があるわけではないことです。
「避雷小屋」としてプレハブ小屋などを用意しているグラウンドもありますが、まだまだ数は足りていないのが現状です。また、グラウンドによっては宿泊施設が車で5分ほどかかる場所もあります。そういった場所ではホテルの担当者などが急いでバスなどで迎えに行くケースも多く、すぐ避難できるグラウンドに比べると避難に時間がかかってしまいます。日本ラグビー協会は、ことしの夏に行った対策の効果を検証したうえで、来年以降の対応を検討したいとしています。
日本ラグビー協会 中陳慎一郎さん「スポーツ中の落雷対策は画一的なものが今までなかったので、本当に手探りの状態から情報収集をしてきました。ラグビー協会として対策に乗り出したことで、知見を自分たちだけでとどめず、スポーツ界の発展のために広く普及させていきたいと思っています」
(2025年8月21日「おはよう日本」で放送予定)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。