「スポーツはフェアであるべきだ」とよく言われます。競技であれば、なおさらです。その公平性にはどんな意味があるのでしょうか。そもそも、スポーツにおける公平性とは。パリ・オリンピック(五輪)柔道女子48キロ級金メダリストの角田夏実選手(33)=SBC湘南美容クリニック=に聞きました。
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五輪の柔道は男女それぞれ7階級あり、私は普段は女子で最軽量の48キロ級で戦っています。
今年4月、体重無差別で行われる全日本女子選手権に出場しました。小さくても大きい選手に立ち向かう姿を見せたい、という気持ちだったのですが……。
初戦の相手は、高校生でも体重約90キロ。相手の袖を握った手を振り払われた時、肩が抜けるかと思うほどのパワーを感じました。
1、2回戦はなんとか勝ったけど、準々決勝で敗退。自分より大きな選手と戦った翌日は、体中が痛く、ぎっくり腰のよう。足首は捻挫、手首や指の関節も負傷していました。ダメージが抜けるまで約2週間かかりました。
コンタクトスポーツは階級別だからこそ、ケガのリスクを抑えられる。競技においては、同じ体格同士で戦うことの意味を改めて感じました。
男女別の区分も同様に、選手が安全に競技をする上で大切です。
小さいころは男子にも負けたくない気持ちがあったけど、成長すると骨格や筋量に差が出てくる。男子の選手からは、「関節の柔らかい女子を力を入れて投げきると怖い」と聞いたことがあります。
実際、私も男子との練習で何度も負傷しています。パリ五輪直前には肩から落ちて、左肩を亜脱臼しました。強くなるため、私はボコボコにされてもよく男子と練習しますが、試合と練習では力の入り方が全然違います。
以前は、52キロ級で出ていました。東京五輪の代表争いで阿部詩選手に水をあけられ、2019年から48キロ級に階級を落とし、チャンスをうかがいました。
結果的に東京五輪出場はかなわなかったけれど、新しい柔道スタイルを確立できました。52キロ級で使っていた背負い投げなどの担ぎ技は、48キロ級の身長の低い相手にはかけづらい。ともえ投げを貫く今のスタイルができました。
パワーを全面に押し出そうと上半身を鍛え、体脂肪を落としていきました。階級を下げ、むしろ筋肉量も増えました。
複数の階級があることによって、自分の肉体や戦法、相手との相性において、自分が輝けるフィールドを探ることができます。
階級制がなく、体重無差別の戦いだけだったら、小柄な選手が活躍するのは難しいでしょう。体格に合った階級で戦えることは、「公平性」につながっていると思います。それに加え、階級変更という選択肢があったおかげで私自身は成長し、結果を残せたと感じています。
つのだ・なつみ 1992年生まれ。東京学芸大卒。柔道女子48キロ級で2021年から世界選手権3連覇。24年パリ五輪金メダル。SBC湘南美容クリニック所属。
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