冬に全国大会を開催する高校スポーツは多く、年末年始には連日、メディアが熱戦を伝える。しかし2025年は、高校スポーツの裏にある様々な問題も注目された。仙台育英高校サッカー部(宮城)では構造的ないじめが、広陵高校硬式野球部(広島)では部員による暴力問題が発覚した。なぜ、スポーツ界のハラスメント行為は無くならないのか。当たり前だと感じていた、あるいは見て見ぬふりをしてきた不都合な事実に目を向けるべき時が来ている。(取材 RBCスポーツキャスター 下地麗子)

12月にはサッカーJ1町田ゼルビアの監督が、自らの意向に沿わない選手を「造反者」と呼んだり、コーチに対して大声で怒鳴るなどしてリーグから「けん責」処分を受けたばかり。沖縄でも新興のスポーツ高、エナジックスポーツの野球部監督が、部員にボールをぶつけるなどの体罰・複数の暴言で、謹慎1年の処分を受けた。スポーツ界のハラスメントは、枚挙にいとまがない。

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ハラスメント「受けた」と答える部活生は毎年一定数存在

沖縄で自死した部活生に向けられた暴言の数々

“彼” が亡くなったのは、南国沖縄でも凍える寒さとなった2021年1月のことだった。

「部活やめろ」
「早く行け。気持ち悪いんだよ」

空手の強豪、コザ高校で主将を務めていた彼は、当時の顧問から日常的に理不尽な要求や叱責を受け続け、高校2年だった17歳のとき、自ら命を絶った。

県の第三者委員会は、彼と顧問の間には主従関係を超えた「支配的要素」があったと指摘。それを止められなかった学校の体質にも問題があったと結論づけた。コザ高校空手部主将自死問題は、沖縄県の部活動のあり方の問題点を最悪の形で露呈させた。

暴言・ハラスメントを受けたと感じる部活生は一定数存在する(イメージ画像)

県教育庁は問題をきっかけに「県立学校部活動実態調査」を毎年実施。2024年度の調査では、回答した部員(9802人)の1.8%にあたる181人が、部活動で暴力や暴言・ハラスメントを「受けたことがある」と答えている。この数字は毎回大きく変わることはなく、毎年2%前後の部員たちが「ハラスメントを受けたことがある」と答えている。

沖縄の現状は「すごく変わりましたとは言えない」スポーツジャーナリスト・島沢優子さんに聞く

さらに気になる数字が発表された。県スポーツ協会が行った「スポーツハラスメントに関する保護者向け意識調査(2023年実施)」によると、約3割(31.8%)の保護者が「競技力が向上するなら “怒鳴る(怒る)指導” はあってもよい」と答えた。これは、全国調査の1割と比べて、県内には「スポハラを容認する」保護者が多いことを意味する。

「3割」という数字に警鐘を鳴らすのは、スポーツ界のハラスメント問題を長年取材するジャーナリストの島沢優子さん。沖縄県部活動改革推進委員会の委員も務める島沢さんは忸怩たる思いを語る。

スポーツジャーナリスト 島沢優子さん

スポーツジャーナリスト 島沢優子さん:
「(全国平均の)1割というのは、いないようなものです。9割が暴言をダメだと言っていると、みんなが『そうだよね、やっぱりダメなんだよね』と思うようになる。だけど3割いると、1つのチームでその3割の人たちが固まったときに、それが “正義” になっちゃう。部活動改革推進委員として3年間やってきましたが、沖縄県はすごく変わったとは言えない。本当に力不足だと感じるし、もっとやらないといけないと思っています」

体罰や暴言は選手のパフォーマンスを上げる?「一発学習・恐怖学習」 その深刻な副作用

2012年12月、大阪の桜宮高校男子バスケットボール部では、主将を務めていた当時17歳の男子生徒が、顧問からの体罰や暴言を苦に自殺した。島沢さんはこの問題の遺族や関係者を取材し、その真実と裏側を描いた「桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた」を出版。その後も「部活があぶない」「スポーツ毒親」などを執筆し、近著では『𠮟らない時代の指導術──主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』を出版している。

島沢さんは2024年に沖縄市で開かれた「スポーツハラスメント防止研修会」で、県内の指導者たちへこう語った。

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