前週末終値比で上げ幅が一時2100円を超えた日経平均株価を示す街頭のモニター=東京都中央区で2025年10月6日午前10時47分、渡部直樹撮影

 自民党の新総裁に高市早苗氏が選ばれ東京市場が「ご祝儀ムード」にわいた6日、産業界には期待と不安が広がった。積極財政で産業を支援する「サナエノミクス」を歓迎する声が上がる一方、高市氏の保守的な政治信条や少数与党ゆえの不安定さもあり、手放しでは喜べないようだ。

 「ベストな人材だ」。車好きで知られ、スポーツカー「スープラ」を長年愛用していた高市氏の総裁就任を受け、ある自動車業界関係者は好感を示した。

 トランプ米政権が課す15%の関税が各社とも負担となるなか、9月26日に名古屋市であった総裁選の演説会で高市氏は「自動車産業を国を挙げて応援する仕組みを考えている」とアピール。特に国内需要を喚起すべく、購入時にかかる自動車税の「環境性能割」の2年間停止と減税を主張した。環境性能割は、消費税との「二重課税」だとして自動車業界がかねて廃止を求めてきた。この業界関係者は「高市氏は我々を誰よりも深く理解してくれている」と持ち上げた。

 高市氏は前経済安全保障担当相だ。防衛や経済安全保障の関連企業には、防衛費増額などの「追い風」が吹くとみられる。6日の東京株式市場では三菱重工業や川崎重工業、NECなどの株価が急上昇した。

 ただし財政規律の緩みにつながる減税策がそのまま実現するかは不透明だ。麻生太郎元首相や鈴木俊一総務会長ら財務相経験者が高市氏を支援していることもあり、実際には「高市カラー」が薄まるのでは、との見方も産業界にはある。

 高市氏の保守的な政治信条が事業環境に悪影響を及ぼす恐れも懸念されている。産業界からは「特に中国との関係は心配。もし関係が冷え込み、対日感情の悪化でインバウンド(訪日外国人)需要が落ち込めば業績への打撃は避けられない」との声も漏れる。

 人手不足で外国人雇用が増えている流通業界も、高市氏の外国人に対する規制強化の方針を警戒。小売り大手関係者は「外国人との共生社会を作ることを大事にしてほしい。分断を生むような言動や政策がないか注視していく」と話した。

 そもそも少数与党であるだけに、政策の実現性も見通せない。防衛産業に関わるメーカー関係者は、石破茂首相も「国防族」でありながら日米関税交渉などに追われて防衛力強化への動きは鈍かったとして「誰が総裁でも少数与党であることに変わりはない」と指摘。他党とも協力しながら政策を実行できるか、高市氏の手腕に目をこらす。

 経団連の筒井義信会長は6日の記者会見で、「日本経済を強くする」と訴える高市氏について「非常に確かな意志を感じている」と評価した。成長投資や産業競争力強化といった政策が経団連と「軌を一にする」とも述べ、経団連としても経済安全保障やエネルギー、科学技術分野への投資拡大に民間側から取り組む考えを示した。

 ただ、7月の参院選以降、自公政権の連立拡大を求めてきた経団連は、この日発表した「主要政党の政策評価」でも、所得税基礎控除の見直しや高校授業料無償化など、野党と協力して実現した政策について例年以上に触れた。筒井会長は「部分部分で連合を組むより、中長期的に安定した連立体制が必要だ」と注文した。【成澤隼人、鶴見泰寿、佐久間一輝、加藤美穂子】

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