キーエンスが29日発表した2025年4〜9月期の連結決算は、純利益が前年同期比5%増の1999億円だった。中国を含むアジアや米州で、センサーやカメラなどファクトリーオートメーション(FA)機器の売り上げが伸びた。26年3月期の年間配当は従来予想より200円多い550円(前期は350円)とすることもあわせて発表した。

売上高は6%増の5453億円だった。地域別(現地通貨ベース)では欧州が1%減だったが、アジアや北中南米、日本などは前年同期を上回った。営業利益は3%増の2721億円だった。売上高営業利益率は49.9%と、前年同期比で約1ポイント下落した。

業績を下支えしたのは中国を含むアジアだ。地域売上高は15%増加し、前年同期の伸び率(4%)を大幅に上回った。中国ではこれまで不動産バブルの崩壊に端を発した不況もあり、半導体など先端産業を除いて製造業の設備投資が低調だった。キーエンスのFA機器はセンサーなどを導入して工場の工程を自動化するため、設備投資額の減少は収益悪化に直結する。ただ、25年に入り中国の需要回復が鮮明になってきた。

同業では三菱電機も、中国での半導体関連などの設備投資需要が増えたことで持ち直してきた。同社のFAシステム事業の4〜6月期の売上高は8%増の1800億円、営業利益は3.3倍の171億円だった。

ゴールドマン・サックス証券の諌山裕一郎アナリストは「先端産業とそれ以外の産業では差が激しいが、全体的に需要が持ち直してきたのは確かだ」と指摘する。ただ、中長期的には「成長ドライバーになるのは米国だろう」と分析する。

米国ではトランプ政権の相互関税の影響が焦点になる。キーエンスは日本から米国に商品を輸出しており、15%の関税率が設定されている。足元では製品の値上げも実施しながら影響を吸収できているようだ。

キーエンスは営業担当者が工場などの現場に通いつめ、課題を聞き出したうえでFA機器を提案するソリューションビジネスに強みを持つ。提供する付加価値が高いとされ値上げをしても需要に響かないケースが多いとみられる。ゴールドマン・サックス証券の諌山氏も「関税の影響は限定的だろう」とみる。

中田有社長は同日、大阪市内で開いた記者会見で、大幅な増配について「中長期的な成長に対する投資を最優先としつつも(株主への)安定した配当の継続、資本効率の向上に取り組んでいく」と述べた。年間配当額は約1300億円となり、前年比で5割増える。

市場から期待されていた株式分割の実施は見送った。東京証券取引所は株式投資に必要な最低投資金額を10万円程度に引き下げるよう全上場企業に要請した。キーエンスの最低投資額は620万円(29日終値ベース)。中田社長は今後の株主還元策についてについて「配当のさらなる充実や自社株の取得」を挙げたが、株式分割については触れなかった。

国内証券アナリストによるとキーエンスは現預金やそれに相当する資産が2兆〜3兆円近くあるとされる。市場からはこれらのキャッシュを株主還元に振り向けることを求める声が強まっている。自己資本利益率(ROE)は25年3月期に13.5%と、2期連続で低下した。増配に加え、自己株式の取得も期待されている。

26年3月期の業績予想は公開しなかった。中田社長はトランプ関税の影響なども念頭に「今後の見通しについては予想が無理だ」と述べた。

モルガン・スタンレーMUFG証券の蒋茜蕾アナリストは16日付のリポートで、26年3月期の営業利益予想を従来の6300億円から5800億円に引き下げた。トランプ政権による相互関税の影響が一定程度響くとみる。ただ、「相互関税の影響が落ち着けば、米国を中心とした設備投資の動きが想定され、27年3月期以降の本格的な業績改善が見込める」としている。

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