10日の日本成長戦略会議の初会合で示された高市早苗政権の重点施策。半導体・人工知能(AI)など17分野の研究・技術開発や投資促進策が盛り込まれた一方、岸田文雄政権から続いた看板政策「新しい資本主義」の肝だった「分配」の文字は消えた。経済安全保障分野への投資に重きを置く「高市カラー」が鮮明となった。
出席した有識者11人のうち、新任の会田卓司クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストと片岡剛士元日銀審議委員は、ともに自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の勉強会で講師をしたこともある「リフレ派」。会合後、会田氏は記者団に「将来の所得成長をもたらす投資を税収の範囲内に収めるという制約があってはならない。国債発行でやることも躊躇(ちゅうちょ)すべきではない」と述べるなど、「高市色」を出したメンバーで政権肝いりの成長戦略策定に向けた議論が始動した。
2021年に岸田政権が設置した新しい資本主義実現会議では、グリーントランスフォーメーション(GX)などの成長分野への投資と、賃上げなどによる分配を成長戦略の両輪に据えた。この路線を名称とともにそのまま踏襲した石破茂政権は「賃上げこそ成長戦略の要」と標ぼう。岸田政権が「30年代半ばまで」としていた最低賃金1500円への引き上げ時期を「20年代」に前倒しし、実質賃金を29年度までに年1%程度上昇させるなど踏み込んだ目標を打ち上げた。
高市政権も「新しい資本主義を受け継いで、ブラッシュアップして成長していく」(城内実日本成長戦略担当相)とする。重点施策で、賃上げに関しては「賃上げ促進税制の活用によるモメンタム(勢い)の維持・向上」や最低賃金の目安を超えた都道府県への交付金を通じた支援などを盛り込んだ。ただし最低賃金引き上げに関する記述や賃上げの具体的な目標値は消え、軸足が投資に移ったことは明白だ。
人手不足や物価高を背景に25年春闘で大企業は2年連続5%台の賃上げを達成したが、実質賃金は9カ月連続でマイナスのままだ。さらに26年春闘ではトランプ米政権による高関税政策の影響が見込まれる。
第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは「トランプ関税のダメージを看過すれば来年の賃上げの動きは弱まる」としたうえで「17の戦略分野への設備投資が、どう賃上げと結びつき、物価上昇に苦しむ国民の生活をよくするのかが見えてこない」と指摘。引き続き中小企業の賃上げに注力すべきだと強調する。【高田奈実、原諒馬、山口敦雄】
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