
大阪大学などの研究グループは2日、魚の卵を使ってノロウイルスを人工合成することに成功したと発表した。急性胃腸炎を引き起こすノロウイルスは人工的に作製したり、培養したりすることが難しく、ワクチンや治療薬は実用化されていない。今回の技術を活用することで、新たなワクチンや治療法の開発につながることが期待される。
研究成果は米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載される。
ノロウイルスは食中毒の原因として下痢や嘔吐(おうと)などを引き起こす。50年以上前に米国で発見された。世界保健機関(WHO)によると、世界で年間約7億人が感染し、推定年20万人が死亡している。抵抗力の低い乳幼児や基礎疾患を持つ高齢者が感染すると命にかかわるケースがある。
ワクチンや治療薬の開発も進むが、現時点で実用化されたものはない。ノロウイルスのたんぱく質を人工的に合成する手法もあるが、非常に複雑な工程でコストも高額となる。またヒトの細胞でしか増えないため、培養や増殖にも時間とコストがかかるといった問題があった。
阪大の小林剛教授らの研究グループは、ノロウイルスを培養できると報告されているゼブラフィッシュに着目した。ゼブラフィッシュの胚(受精卵)に、ノロウイルスのRNAを逆転写して合成したDNAを注入した。注入から数日で感染力のあるノロウイルスを採取することができたという。
また今回の技術を活用し、遺伝子を組み換えたウイルスの作製や、化学発光するたんぱく質を導入したウイルスの作製にも成功。魚の受精卵を活用して効率的にノロウイルスを作製できることを確認した。病原性や増殖性を弱めたウイルスの作製も可能になるとみている。
阪大の小林教授は「病気に関わる遺伝子を改変したノロウイルスで、ワクチンに使えるようになる可能性がある」と話す。
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