今年7月に「おこめ券」を配布した山形県南陽市のチラシ=2025年12月14日午後7時38分、長南里香撮影

 政府が物価高対策として推奨する「おこめ券」を巡り、山形県鶴岡市などコメどころ庄内地方でも配布を見送る自治体が相次いでいる。コメを買う必要性が低い農家が一定程度いることや、自治体側の事務負担も増える使い勝手の悪さなどが主な理由だ。暮らしの足元ではコメの高値が続いており、子育て世帯から「一時しのぎではない対応を」と切実な声が上がっている。

自治体「利便性低い」

 コメの産出額が全国有数の鶴岡市は19日、国の交付金4000円を上乗せした1人当たり5000円分の商品券を発行する生活応援商品券事業を市議会定例会に追加提案し可決された。酒田市や三川町も「市民への還元率も利便性も低い」などの理由でおこめ券配布を見送る方針を示している。

 おこめ券は1983年に発行が始まった全国共通券。全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)と全国農業協同組合連合会(JA全農)が発行し、1枚500円。発行元の手数料などを除いた440円分のコメに交換できるほか、店舗によっては他の商品にも使える。

 高市政権で初入閣した衆院山形2区選出の鈴木憲和農相は、就任前から「本当に必要としている人に(コメが)行き渡るようにするのが筋」などとして、おこめ券を家計支援策として提案していた。

 山形県内では庄内地方以外で南陽市が今年7月、交付金を活用して全1万1000世帯に1人1枚を郵送した。

 県も9月から児童扶養手当を受給する約6000世帯を対象に、年2回のコメ10キロの現物支給の代わりに、おこめ券20枚(8800円分)の配布に切り替えた。

 ただ、南陽市の担当者は、18・3%という経費率の高さを指摘した。「市がこれまで配布した紙のクーポンの経費率5%弱に比べてだいぶかかってしまった」。事務費を節減するため、封入作業などは外注せず、全て職員が手掛けたという。

 コメ価格は高止まりが続く。農林水産省は19日、12月8~14日に全国のスーパーで販売されたコメ5キロの平均価格は税込み4331円だったと発表した。15週連続で4000円台が続いており、前年同月に比べて846円値上がりしている。

 鶴岡市も例外ではなく、中心部のスーパーなどに並ぶ価格は、主力品種で5キロ税込み約4700円。主食費が家計を圧迫する状況に、子育て世帯から不満が漏れる。

 中学生と高校生の子供を育てる鶴岡市の嘱託職員の女性(49)は、「県から支給されたおこめ券8800円分ではコメ10キロ買えなくなった」と訴える。「コメが高くなって地域の基幹産業を担う農業者が助かっているのはよく分かる。その半面、食べ盛りを抱える世帯はこのまま続けば暮らしていけない」とこぼす。

 庄内町の団体職員の女性(49)は「農家の親類はいないのでスーパーなどで買っているが購入頻度は減った。小学生の子供には、ご飯は家ではなく給食でしっかり食べるよう言い聞かせている」とため息をついた。

コメ価格安くする本来の対策を

 農政に詳しい宮城大の大泉一貫名誉教授(農業経営学)は「(おこめ券配布を)自治体の判断にまかせたために見向きもされなくなり、『コメが高値で買えない人を対象に発行する』とした当初の趣旨が通らなくなるずれが生じた」と指摘する。おこめ券の発行元は今月、通常より安く自治体に販売する方針を表明した。だが、これにより自治体側からは住民への配布時期が当初の想定より先になると見られる可能性があり「使い勝手が悪い悪循環が続いている。コメの価格を安くする本来の対策を取るべきだ」と話している。【長南里香】

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