東急バスの古川卓社長
全国でバス路線の廃止が相次いでいる。運転手不足が起因する社会課題に政府は2024年に特定技能の在留資格で外国人をバス運転手として採用できるようにした。一部のバスでは研修を経て26年にも本格的に現場で活動することになる。日本バス協会の外国人運転者受入推進部会長も務める東急バスの古川卓社長は「運転手は高齢化していて男性に偏っている。多様性の門戸を広げたい」と語る。 ふるかわ・たかし 1986年(昭和61年)早大商卒、東京急行電鉄(現東急)入社。18年国際事業部長、21年から現職。23年日本バス協会外国人運転者受入推進部会長。25年日本バス協会副会長。鹿児島県出身。62歳

――運転手不足によるバス路線の廃止が相次いでいます。

「運転手不足の問題は遡るとバブル経済の崩壊から始まる。交通事業者は景気が悪化する中で合理化を進め、バス部門を切り離してきた。事業部内だけで合理化を図るようになるため運転手の賃金も上がらず採用も進まなかった。00年代に入ると規制緩和で新規にバス事業を始めるようになり競争が激化。運転手の待遇は悪くなった」

「もともと志願者が集まりにくい中、新型コロナウイルスがとどめを刺した。人流が減って旅客収入が入らなくても、公共交通としてバスは動かし続けないといけない。費用を抑えるため採用活動も滞る半面、運転手の離職も重なってしまった」

「デフレ下で運賃改定を約30年間進めてこられなかったことも大きい。原価はこれまで地域ごとのバス運転手の平均給与で算出していたため全産業平均と比較しても安かった。稼ぎや勤務形態の観点でも同じ運転業ならとタクシーなどに流れた」

研修をうける外国人運転手

――特定技能外国人を運転手採用できるようになりました。

「国土交通省は運転手不足の解消に向け、外国人について特定技能1号で在留できる資格を作った。バス運転手は減り続け、コロナ後も輸送力はこれまでの8割程度だ。高齢化も進んでいる半面、女性の運転手も数%しかいない。このままでは運転手をバス事業者ごとに奪い合うだけになる。まずは今いる運転手に長く活躍してもらいたい。外国人の運転手にも門戸を広げて多様性のパイを広げていく」

「東急バスでは25年9月にインドネシア籍の3人を採用した。自国で運転免許証を持ち、日本で外免切り替えした。座学で接客の挨拶を覚え、運賃機の扱い方を学んだ。路上研修を経て3月にも実務を始める」

――外国人が雇用の調節弁のように扱われてしまう恐れは。

「東急バスの外国人運転手の採用数は年数人の予定で、全体の採用人数の1割にも満たない。外国人の運転手だけでは、運転手不足は解消しない。まずは日本のバス路線で活躍できるという道を作ることが目的だ」

「外国人運転手は採用から研修までの期間を日本人より2〜3倍かけている。給料も日本人と同水準で支払う。決して安い労働力などということもない。初めての制度なだけにバス業界としても成功事例にしたい」

公共交通の利用者は、路線があることへのありがたさになかなか気づきにくい。バスに限らず、鉄道路線でも地元住民は路線廃止を知って初めて反対する。もちろん事業者も赤字のままでは事業を続けることができない。

これから地方などを中心に、ますますバス運転手不足が顕在化してくるだろう。大型2種免許をもつ人は2024年時点で76万人強と、80万人を割りこんだ。ピーク時と比べると3割以上減った。65歳以上の運転手の割合も47%に達しており、新たな担い手を増やしていかなければ立ちゆかなくなる。

古川卓社長が語るように、まずは「運転手の多様性」を確保することが欠かせない。路線網を維持する上で何を我慢するのか。利用者も無い物ねだりばかりしているわけにはいかない。

(鷲田智憲)

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