西武HDの西山社長
インバウンド(訪日外国人)需要などで、ホテルをはじめとしたサービス価格の上昇が続いている。国内客の観光需要は減退しかねない。プリンスホテルを傘下に持つ西武ホールディングスの西山隆一郎社長は「今は踏ん張りどころだ」と語る。価格が高騰している要因について聞いた。 にしやま・りゅういちろう 1987年(昭62年)横国大経卒、第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2009年西武HD入社。14年取締役。22年取締役常務執行役員。23年から現職。神奈川県出身。26年の目標は埼玉西武ライオンズと応援している川崎フロンターレの優勝を見届けること。

――ホテル価格の高騰が止まりません。

「現象としては価格の高騰だが、これは日本が培ってきた観光業のブランドがやっと適正に評価されてきていると認識している。サービス価格は長年実態より低くかった。製造業のメードインジャパンが世界を席巻したように、今は日本の観光業が世界から注目されている。もう一度行きたい国として日本を挙げている」

「価格の高騰と感じてしまうのは岸田(文雄)政権の時から、賃金と物価の好循環によって、正常化していく過程にあるからだ。今は、日本経済の踏ん張りどころ。財政・金融政策と企業の賃上げ、サービスの質向上を官民一体で取り組んでいく正念場といえる。2026年は試金石になる」

――インバウンドが増えているの円安だからではないですか。

「通貨価値は観光業に影響するのは事実だ。今は円安で特に欧米の観光客にとっては実感よりも安い旅行になっている。インバウンド需要において円安は明らかに追い風になる」

「ただ海外には出張、旅行でもよく行くが、サービスや接客のきめ細やかさは日本の方が上だ。最上級クラスのホテル価格(ドル建て)を世界の都市別で比較すると東京は一番になっている。日本の観光業は適切に評価されるようになってきた」

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――多様なコンテンツがある中でサービス価格が高騰すると観光は選ばれなくなりませんか。

「確かに今はサブスクリプションサービスなどで手ごろに楽しめるコンテンツは充実している。ただ体験を通じたコト消費は絶対に廃れない。世の中には生成AI(人工知能)も出てきているものの、人間の感情が揺れ動くところは違う。サービス業は人間相手のビジネス。西武グループの経営計画にもある『五感を揺さぶる体験創造』はどんどん貴重になっていく」

「ビジネス面での需要でも今は急激な変化の過渡期にあり副作用が出ている。でも公務員の出張旅費が見直されるような動きも出て、民間企業でも広がる。決してリスクだとは思わない」

――物価高が続く中でこの価格転嫁はいつまで続きますか。

「価格転嫁という表現は適切ではない。これまでの設備投資やおもてなしなどのサービスに対する評価が上がったからだ。適正な評価が後からついてきているわけで、やみくもに上げたということではない。これからも質を上げて価格も上げていきたい。提供するサービスを価格帯に応じてバリエーションを増やすことは大事。高級なブランドもあれば宿泊特化型で手ごろな価格帯、観光地から都市部まで用意するのが使命だ」

「一方、かつてのような『1億総中流』とまではいかなくても、賃金と物価の上がる好循環が中小企業まで波及していってほしい。資産効果で25〜26年の年末年始を海外で過ごす人もいる。格差が開いてしまうような状況は悲しいもので決して望むところではない。所得水準や許容力に応じて旅行ができる社会を望んでいる」

遠のく「たまのぜいたく」

西武HDの経営基盤は功罪両面ある旧創業家が培った土台の上にある。プリンスホテルは日本の高度経済成長期に娯楽を求める人たちに支えられ全国に展開していった。思い出のディナーや結婚式など、特別な場面でお世話になった人も多いはずだ。

「たまのぜいたく」も今は遠ざかっているように感じる。賃金と物価が上がる局面で、「踏ん張りどころだ」(西山隆一郎社長)というのは、耐えている人たちには少々厳しいかもしれない。

ただ、30年以上デフレが続いたことを考えれば、ここまでの企業努力も並大抵のものでなかったことも事実だろう。次は賃金が適切に上昇する環境を整えるべきタイミングだろう。

(鷲田智憲)

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