サービス業向けのAIロボットを手掛ける中国の星動紀元(ROBOTERA)は、シリーズA-IIで1億4100万ドルを調達した=同社サイトより
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

アーリーステージ(初期)スタートアップの活動は、次のテックトレンドを示している。AIスタートアップは大規模言語モデル(LLM)の次のアーキテクチャーの開発を試み、投資家はAIがロボットなどを自律制御する「フィジカルAI(エンボディードAI)」を次のブームとみて資金を投じている。

2025年11月の世界のアーリーステージ企業の資金調達件数は1300件を超え、調達額は計78億ドルに達した(資金調達を後から発表する企業もあるため、合計はさらに増えるだろう)。

今回は注目すべきトレンドを取り上げる。ここで登場するスタートアップは、CBインサイツのモザイクスコア(スタートアップの有望性を測定するスコア)と重要度に基づく。

LLMに挑む新たなAIアプローチ:カスタマーサービスAIエージェント、音声に対応

AIインフラとエージェントの開発を手掛ける企業の25年11月の調達件数は68件、調達額は計10億ドルだった。アーリーステージの調達額上位10件のうち7件がAI関連で、AIエージェント向けインフラの米パラレル(Parallel、モザイクスコア884点、以下同)のシリーズAが調達額1億ドルでトップに立った。

調達活動に基づく主なトレンドは以下の通りだ。

LLMの次のアーキテクチャーを試行(3件):

スタートアップ各社はLLMにとどまらず、信頼性とコスト効率がさらに高いAIソリューションの開発を進めている。データから学習するニューラルネットワークと、人間が設定したルールに基づく従来のルールベース型AIを組み合わせた「ニューロシンボリックAI」や、トークンを逐次ではなく並列で生成することで速度を飛躍的に向上し、画像処理半導体(GPU)の効率を最大化する「拡散言語モデル(dLLM)」などが主な例だ。

米オーグメンテッド・インテリジェンス(Augmented Intelligence、685点、シリーズAの転換社債で2000万ドル調達)の企業価値の評価額は7億5000万ドルで、11月に資金調達したアーリーステージ企業でトップクラスだった。同社は有能で予測可能なビジネス用エージェントを生み出すため、ニューロシンボリックAIモデルの開発に取り組んでいる。

一方、米エビディアム(Evidium、698点、シリーズAで2200万ドル調達)は医療用ニューロシンボリックAI基盤を手掛ける。アンドレイ・カルパシー氏やアンドリュー・ング氏ら著名なAI研究者が出資する米インセプション・ラボ(Inception Labs、718点、シードVC – IIで5000万ドル調達) は、LLMよりも高速で効率的なdLLMの開発に取り組んでいる。

汎用人工知能(AGI)の野望を追求(2件)

科学的発見を支援する超知能を開発するAA-I Technologies(イスラエル、744点)は11月のラウンドで調達額が最も多く、企業価値も最も高かった(シリーズAで、企業価値10億ドルで2億ドルを調達)。日本のサードインテリジェンス(Third Intelligence、726点、シリーズAで5200万ドル調達)は様々な分野で人間レベルの推論ができる「偏在型AGI」の開発に取り組んでいる。

生成エンジン最適化(GEO)プラットフォーム、エージェンティックコマースの未来を主導(2件)

この分野のスタートアップはAI検索エンジンやAIエージェント、LLMで生成された回答に合わせてコンテンツを最適化する法人向けツールを提供している。ブランド各社はAIエージェントが自律的に購入判断を下す「エージェンティックコマース」の未来に備える必要がある。

独ピークAI(Peec AI、676点、シリーズAで2100万ドル調達)はLLMによる商品発見でブランドの可視性を高め、制御も担う。スペインのTacmind(576点、VCシードで277万ドル調達)は検索エンジンや生成AIサービス「Chat(チャット)GPT」と連携し、ブランドをAIエコシステムに組み込むプラットフォームを手掛ける。

カスタマーサービスAIエージェント、音声に対応(13件)

AI音声と多言語対応を求める企業の需要を背景に、カスタマーサービスAIエージェント企業の資金調達は活発化している。米ギガ(Giga、794点、シリーズAで6100万ドル調達)は企業のカスタマーサービス向けに感情を認識できる音声AIを提供する。

イスラエルのワンダフル(Wonderful、シリーズAで1億ドル調達)は顧客に応じて調整できる多言語対応の法人向けAIエージェントを開発している。一方、仏ゲットボーカルAI(GetVocal AI、701点、シリーズAで2600万ドル調達)はカスタマーサポートチーム用の対話型AIエージェントを手掛ける。

ゼンデスク(Zendesk)がカスタマーサービスAIエージェント&コパイロット市場をリード。出所:CBインサイツ

投資家はフィジカルAIブームに期待

25年11月のフィジカルAI分野のアーリーステージの調達件数は55件で、そのうち12件が調達額上位100件に入った。この分野の主なトレンドは以下の通りだ。

・米中の競争が白熱(35件)

米中両国の企業はフィジカルAI分野の調達額の計71%を占め、米国が37%、中国が34%と拮抗している。注目企業は産業や家庭、サービス業向けの中国の星動紀元(ROBOTERA、778点、シリーズA-IIで1億4100万ドル調達)や、産業用の米マインド・ロボティクス(Mind Robotics、シードVCで1億1500万ドル調達)、エンボディードAI向け汎用脳を開発する中国のBoundless Dynamics(シードVCで4200万ドル調達)、製造業、ロボティクス、防衛部門向けエッジコンピューティングの米コードメタル(Code Metal、746点、シリーズA-IIで3600万ドル調達)、家庭用ロボット開発の米サンデー(Sunday、720点、シリーズAで3500万ドル調達)だ。

ロボット向け汎用AIに資金が流入(3件)

各社は非構造化環境で動くロボットシステムの能力(脳)の問題解決に取り組んでいる。スイスのフレクション・ロボティクス(Flexion Robotics、684点、シリーズAで5000万ドル調達)はヒューマノイド(ヒト型ロボット)のハードウエアを動かす自律型ソフトウエアスタックの開発を進めている。米アーキタイプAI(Archetype AI、793点、シリーズAで3500万ドル調達)はマルチモーダルセンサーのデータを解釈し、実世界を理解する基盤モデルを手掛ける。

投資家は産業界、職場、さらに家庭用にまたがるエンボディードAIがチャットGPTのような変曲点に達するとみている。もっとも、真のボトルネックはモデルの能力ではなく、学習データだ。このため、人間の実演や合成環境からの模倣学習で独自データを生成するスタートアップに注目すべきだ。こうした企業は汎用ロボット脳の普及に必要な学習データを提供するからだ。

ヒト型ロボットの市場マップ。出所:CBインサイツ

バイオテックとヘルスケアテック、資金調達の勢い続く

バイオテクノロジー、メドテック、デジタルヘルス分野の11月の調達件数は160件に達した。精密医療や分子標的薬の開発に取り組む企業の調達額が多かった。

肥大型心筋症など心臓病の治療薬を開発する米ブレイブハート・バイオ(Braveheart Bio、723点、シリーズAで1億8500万ドル調達)のラウンドは11月で2番目に大きかった。米NEOK Bio(745点、シリーズAで7500万ドル調達)はがん治療用の二重特異性抗体薬物複合体を開発している。米アゼリア・セラピューティクス(Azalea Therapeutics、707点、シリーズAで6500万ドル調達)は精密・ゲノム医療に取り組んでいる。

ヘルスケアテックでは、米アービター(Arbiter、705点、シードで5200万ドル調達)が患者ケアの調整を主導し、米タラ・ヘルス(Tala Health、700点、シードで1億ドル調達)は医療プロセス全般でAIエージェントと臨床医の連携を手掛ける。

量子スタートアップ、短期の機会に狙いを定めコンピューティング以外の技術を開発

量子技術分野のスタートアップは未来の商用展開の土台を築いている。ネットワーキング、センシング、セキュリティーなどの分野で18社が資金を調達した。

キューフォックス(QphoX、オランダ、756点、シリーズA-IIで1150万ドル調達)は量子コンピューターをネットワーク化し、拡張するための量子モデムを開発している。量子センサーは早期の商用化が期待できる機会として台頭している。

英クオンタム・ライト・メトロロジー(Quantum Light Metrology、598点、シリーズA-IIで460万ドル調達)は排出量モニタリング用の量子ガスLiDAR(ライダー)を手掛け、米EuQlid(シード-IIIで300万ドル調達)は半導体のイメージング、米ディフラクション(Diffraqtion、516点、シードで120万ドル調達)は宇宙観測を対象にしている。

ソフトウエアでは米QSimulate(558点)が医薬品の研究開発向けに量子技術を活用した分子シミュレーションを提供し、米EigenQ(575点、シードで7万ドル調達)は防衛産業や法人向けにポスト量子暗号を手掛ける。

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