フランスのマクロン大統領はパレスチナ国家の承認を正式に表明した(22日、米東部ニューヨーク)=ロイター

【ニューヨーク=北松円香、イスタンブール=渡辺夏奈】22日に米ニューヨークの国連本部で開かれたパレスチナ和平会議で、フランスのマクロン大統領はパレスチナを正式に国家承認すると表明した。マクロン氏は「ガザの爆撃と虐殺を止める時が来た」と述べ、イスラエルにガザ攻撃停止を強く要請した。

英イタリアも承認、G7は対応分かれる

パレスチナ和平に関する会議は、世界各国の首脳による一般討論演説が23日から始まるのにあわせて、フランスとサウジアラビアが開いた。英国やカナダもこの日までに承認済みで、パレスチナを国家承認した国は150カ国を超えた。米国や日本、イタリアは承認を見送り、主要7カ国(G7)の足並みは乱れている。

マクロン氏は会議冒頭の演説で承認を表明し、「承認はイスラエルとパレスチナ双方に有益な交渉の道を開く」と主張した。中東地域の平和のために、イスラエルとパレスチナが独立した国家として共存する「2国家解決」を追求すべきだと改めて訴えた。

マクロン氏はハマスが拘束している人質が全員解放され、停戦が成立した後にパレスチナに仏大使館を開設する方針だ。

パレスチナの後ろ盾となってきたアラブ諸国からも歓迎の声が上がる。サウジアラビア外務省は承認が「2国家解決推進への真剣な取り組みを示すものだ」との声明を出した。

冒頭演説の準備をするマクロン仏大統領(22日、米ニューヨークの国連本部)=AP

英仏などによるパレスチナ承認は連携してイスラエルに圧力をかける狙いがある。ガザ侵略やヨルダン川西岸の入植地拡大などパレスチナの独立性を侵害するイスラエルに対して、あくまでパレスチナの主権を支持するとの強力なメッセージになる。

国際社会が長年支持してきた二国家解決が「消滅寸前だ」(仏大統領府高官)という危機感も承認につながった。トランプ米政権内ではガザをリゾート地などとして開発する計画が検討されているほか、イスラエルでもヨルダン川西岸の併合計画が浮上する。

中東の安定、欧州の安全保障に直結

フランスは元々、イスラエルと中東諸国双方と良好な関係を維持するバランス外交を展開してきた。中東地域に委任統治領を保有していたことがあり、国内にはイスラム教徒や中東国との二重国籍保有者に加え、多数のユダヤ教徒が暮らす。過去にはイスラム過激派によるテロも発生しており、中東地域の安定が国内の治安に直結する。

2023年にガザのイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲した際は仏政府は強く批判し、イスラエル支持に回った。だがガザでの人道危機が深まるにつれ、イスラエルに自制を呼びかけるようになった。

有権者も仏政府の決定を後押しする。世論調査では条件付きも含めると7割が国家承認を支持する。仏メディアによると、22日には仏東部リヨンなど国内の80以上の自治体庁舎でパレスチナの国旗が掲げられた。

イスラエル「テロに莫大な報酬」

もっとも国際社会は一枚岩にはなれていない。イスラエルの最大の武器調達先である米国は、イスラエルを支持する国内の一部世論に配慮して国家承認を見送った。パレスチナ自治政府関係者へのビザ(査証)発給も拒否したため、アッバス議長は22日の会議にオンラインで参加せざるを得なかった。

ドイツはナチスによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の歴史があり、表だってイスラエルを批判しづらい。今回も承認を見送った。イタリアも米国やイスラエルとの関係を重視し、承認しなかった。日本も検討は継続するものの、今回は承認しなかった。

承認でイスラエルに直接の不利益が生じる訳ではなく、パレスチナとの和平交渉進展にどこまで効果があるかは未知数だ。イスラエルに経済制裁を科して圧力をかける方法も考えられるが、国際社会の幅広い合意は得られていない。

イスラエルは猛反発している。ネタニヤフ首相は21日、「テロに莫大な報酬を与えている」と英国などの承認を批判した。「パレスチナ国家は誕生しない」とも断言した。同氏は承認に具体的な対抗策を打ち出すとしており、パレスチナの状況が一層深刻になるリスクもある。

【関連記事】

  • ・日本「米欧追随せず」独自路線 2国家共存へ双方と対話
  • ・国連80年目の岐路、「米国第一」で財政悪化 23日から首脳演説
  • ・石破茂首相、トランプ氏との面会調整 国連総会に合わせ仏大統領とも

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。