テザーは米国市場向けのステーブルコイン導入を発表した=ロイター

【ニューヨーク=佐藤璃子】ステーブルコイン最大手のテザーが巨額の資金調達を検討している。最大200億ドル(3兆円)との見方がある。実現すれば企業価値が米オープンAIに並ぶ最大5000億ドルに上る可能性も指摘されている。ステーブルコインはトランプ米政権下で普及機運が高まっているが、既存の金融システムへのリスクなど市場膨張に懸念もつきまとう。

テザーのパオロ・アルドイノ最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に対し「テザーはステーブルコインや流通網の普遍化、人工知能(AI)、商品取引などの事業分野における自社の戦略規模を拡大するため、厳選された著名な投資家グループからの資金調達を検討している」と回答した。

米ブルームバーグ通信によると、新たな株式発行による調達を検討しており、実現すれば企業価値が最大で5000億ドルに上る可能性があるという。オープンAI(企業価値5000億ドル)や米宇宙会社スペースX(同4000億ドル)といった企業価値が1000億ドル以上の未上場企業の総称「ヘクトコーン」に仲間入りする可能性がある。

投資家候補としてソフトバンクグループ(SBG)や米アーク・インベストメント・マネジメントの名前が挙がっているそうだ。

仮に5000億ドルの企業価値になれば、2024年11月時点の評価の41倍(ピッチブック調べ)に膨れ上がる。QUICK・ファクトセットによると、6月にニューヨーク証券取引所に上場した業界2位のサークル・インターネット・グループの時価総額は約270億ドルにとどまる。

情報サイトのコインマーケットキャップによると、テザーのステーブルコイン「USDT」の時価総額は約1830億ドルと直近1年で5割上昇し、市場全体の約6割を占める。約750億ドルとされるサークルのUSDコイン(USDC)の2倍以上だ。

テザーの25年1〜6月期の純利益は前年同期比10%増の57億ドルだった。裏付け資産である米国債の利子収入などが大きいと見られる。

調達で得る巨額の資金を米国事業の拡大に利用する可能性がある。テザーは9月、米国向けステーブルコイン「USAT」導入計画を発表した。「USATは(ステーブルコインの包括的な規制を定めた)ジーニアス法を順守するよう設計される」と説明し、12月の導入を目指す。

ジーニアス法は7月に成立した。発行者に米当局の認可を求め、規制対象とする。ステーブルコイン1ドルにつき同額のドルや短期国債など流動性の高い裏付け資産を持つことを義務付け、準備資産の詳細の開示も毎月求める。

ステーブルコインの特徴=共同

ステーブルコインの企業向けインフラを提供している米バスティオンのナッシム・エデキアク最高経営責任者(CEO)は「(ジーニアス法成立により)規制が明確になり、企業がステーブルコインの導入を踏み切れる水準までリスクを低減できた」と指摘する。

ただ、普及に伴うリスクへの不安は大きい。国際通貨基金(IMF)は、ステーブルコインの普及で銀行預金の需要が低下すれば銀行が資金を集めにくくなり、信用仲介機能が弱まる懸念があると指摘。逆にステーブルコインの信用が低下し、換金が殺到する「取り付け騒ぎ」が起これば国債やレポ市場に影響が波及する恐れもあるという。

ステーブルコイン 米ドルなど法定通貨に価値が連動する暗号資産(仮想通貨)の一種。価格変動の大きいビットコインなどとは異なり、発行者が法定通貨や国債を裏付け資産に持つなどの方法で価格が安定するように設計している。主に国際送金や、仮想通貨の取引の際の媒介手段などとして利用されている。

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