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<カギは「糖への依存」を断つこと...細胞レベルから体を強くするための「科学的な再起動」について>

ファスティングはツラいものではなく、やっていて楽しくなるもの。数々のダイエットに挫折してきた著者が、「ファスティング」を再定義。

『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』(CEメディアハウス)の第6章「健康で強い身体を作るためのファスティング」を一部編集・抜粋。


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分子のレベルで体を作る

ファスティングによって代謝の力を強化することができる。そのための最も基本的な方法のひとつが、糖への渇望を断つことだ。

糖はよくコカインにたとえられる。糖には依存性があり、双方ともドーパミンの放出を促すからだ。糖もコカインも一時的にエネルギーを高めることが証明されているし、どちらも白い粉末状の物質だ。

両者が同じというのは言いすぎだが、根っこの部分ではあながち外れてはいない。はっきりさせておこう。

砂糖を鼻から吸引する人はいない。砂糖を密輸して1㎏1000ドル(コカインの相場は知らないが)で売るマフィアもいない。一方、国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)がコカインの影響をどう説明しているかを見てみよう。


少量のコカインを使用すると、気分が高揚し、活力がわき、口数が増え、神経が鋭敏になり、(...)一時的に食欲と睡眠欲が減退する

コカインには動悸、興奮、心臓発作、脳卒中、昏睡などの副作用がある。砂糖も同じなのだが、コカインと比べてその影響はほんのわずかで気がつかない。

コカイン中毒者がそれなしで生きられないのと同じように、砂糖中毒者も糖に依存している。多くの人たちが糖に溺れていて、それは僕らの運動時の行動パターンに明らかに見てとれる。

ワークアウト中ちょっと疲れるたびに、あなたは糖を摂取しているのではないだろうか。運動しない人でさえ、常に糖を摂り続けている。すぐに利用できる、短時間の思考のための燃料をどうにかするのが、僕らにとって重要な代謝戦略になった。

自転車の長距離ライドなどの持久力レース前夜のカーボ・ローディングには、いくつかメリットはあるものの、人生は自転車レースではない。しかも、今日のトップレーサーは、糖でなくケトン体をエネルギー源にしてレースを走るようになっている!


 

もしこの先毎日80年代の持久系アスリートのような食事を続ければ、糖の摂りすぎによってそのうち体はダメージを受けるだろう。

では視点を変えて、どうすれば強くなれるかを考えてみよう。糖燃焼から脂肪燃焼に難なく切り替えられるよう自分を鍛えることができるとしたら?

ジムに通う大半の人たちには、うさんくさい話に聞こえるだろう。糖はエネルギーを供給するが、脂肪はそうではない。脂肪をエネルギー源にして、いったいどうやって負荷の強いワークアウトをやり続けられるというのか?

だが、主に脂肪を燃やして強度の高い運動をすることは間違いなく可能だ。しかも、脂肪燃焼に切り替えると、ひじょうに興味深いことが起きるのだ。

じつは糖質よりも脂肪のほうが分子に含まれるエネルギー量は多い。よい脂肪には抗炎症作用もあるため、運動中はとくに重要だ。

まさにその性質上、運動は炎症の発生を促す。運動により筋繊維が傷つき、炎症反応が起きるのだ。

激しい運動のあとで体が痛くなるのはそういうわけだ。マラソンを完走したばかりの人、あるいはきついトレーニングをして疲労した人の血中マーカーには、炎症のサインがはっきり表れる。

それはまったく問題ではない。運動すれば炎症が起きるのはあたりまえで、むしろ効果的な運動ができている証拠なのだ。炎症を治し、筋肉を細胞レベルで修復する回復サイクルのあいだに、体は強くなる。筋肉は修復プロセスの副産物なのである。


 

裏を返せば、炎症を抑える薬やアイスバスはこの治癒プロセスを妨げ、筋肉の成長を阻む。きついワークアウトをした翌日に体が痛くなっても、イブプロフェンを服用しないほうがいい。

イブプロフェンには抗炎症作用があり、運動の目的に逆らう働きをするからだ。体に備わった修復メカニズムが本来の機能を果たせば、体はみずからを修復するだけでなく、強くもする。

そうしたメカニズムをうまく働かせたいと本気で思うなら、糖ではなく、代わりに抗炎症作用のある脂肪を燃料源にしよう。そうすれば、治癒と強化のプロセスを活性化できる。多くのエネルギーを手に入れると同時に、炎症を減らせる。

僕はたしかに、かつて脂肪由来のケトン体を燃焼させるケトーシスの状態でアイアンマンレースを完走することができると断言した。ただし、一言付け加えておきたい。僕はケトーシスを維持しながらアイアンマンレースに出るなんて愚かだとも言ったのだ。可能ではあるものの、代謝の面で体に害が及ぶからだ。

それを裏づける決定的な証拠もある。名前を出すわけにはいかないが、僕はケトーシスをキープしながらトライアスロン──スイム3.8㎞、バイク180㎞、フルマラソン42.195㎞──を完走した医師と話をしたことがある。僕の予想どおり、検査したところ彼の体は惨憺たる状態だった。

全身炎症だらけ。代謝はめちゃくちゃ。それならば、ケトン体と糖を同時に燃やせばいいのでは? ロケット燃料! それこそ僕がおすすめする方法だ。

本書『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』は適切なファスティングの方法を選ぶのに手を貸すためにあるのであって、害を及ぼすほど極端なやり方をすすめているわけではない。それに、何かが「できる」イコールそれを「すべき」という意味ではない。

それは人生全般、とりわけファスティングに言えることだ。目標は苦しい思いをすることでも自分を無理やりに極限まで追い込むことでもない。目指すのは、自分を成長させ、エネルギー全開で自信に満ちた、あらゆる点で強い人間になることなのだ。


 

代謝の力を強くするのに重要なのは、代謝の柔軟性、つまり糖燃焼から脂肪燃焼に難なくスムーズに切り替えられる細胞の力である。

そうした細胞のミトコンドリアはすでに、糖か脂肪のいずれかから主要なエネルギー貯蔵分子のアデノシン三リン酸(ATP)を産生するための化学的ツールをすべて備えているのだが、ほとんどの時間はそのうちのひとつしか起動されない。

僕らの大半は、炭水化物を分解して得られる多量の糖を含む、糖燃焼ツールを常に使っている。細胞が糖燃焼モードから抜け出せないと、体重を減らすのが難しくなり、利用可能なエネルギー量が制限される。

運動とファスティングは細胞にとって予測不能な状況を作り出す。そのとき細胞は、糖は一時的にしか入手できないため、ないときは脂肪をエネルギー源にする準備をしておく必要があるという生化学信号を受け取る。いかなることに対しても、細胞はぬかりない準備をしておかなければならない。

そのために、細胞は組成と構造を調整し、どちらのタイプの代謝ツールも起動できるようにする。体重減少およびエネルギー生成を助けるのに加えて、柔軟な細胞はインスリン抵抗性を発症させず、ケトーシス状態にやすやすと順応する。気分が悪くなることもない。

たとえて言うなら、スマホの充電だ。壁の電源コンセントを使っても、車の中のケーブルを使ってもいい。ひとつの方法でしか充電できないとなれば、行動は大幅に制限されるだろう。

どこに行っても充電できるスマホのほうが、はるかに価値があって頼れるし、楽しめる──自分の体もそうありたいものだ。


 

デイヴ・アスプリー(Dave Asprey)
起業家、投資家、シリコンバレー保健研究所会長。「ブレットプルーフ」創設者。カリフォルニア大学サンタバーバラ校卒業。ウォートン・スクールでMBAを取得。シリコンバレーのIT業界で成功するも肥満と体調不良に。その体験から医学、生化学、栄養学の専門家と連携して膨大な数の研究を統合し、100万ドルを投じて心身の能力を向上させる方法を研究。バターコーヒー(ブレットプルーフ・コーヒー)を考案し、ダイエットに成功した体験を『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』(ダイヤモンド社)にまとめ、世界的ベストセラーとなる。ニューヨーク・タイムズ、フォーブス、CNNなど数多くのメディアで活躍中。著書に『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』『シリコンバレー式超ライフハック』(ともにダイヤモンド社)など多数。

『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』
 デイヴ・アスプリー[著]/安藤 貴子[訳)]
 CEメディアハウス[刊]

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