Clari Massimiliano-shutterstock

<体ひとつで爆発力を呼び覚ます「監獄生まれ」の自重トレーニングが、いまここに蘇る>

日本でも定着した「自重トレーニング」は、自らの体重を利用することで、体に無理がなく、本当の強さが身に付く筋トレの王道。

その伝道者で元囚人、キャリステニクス研究の第一人者ポール・ウェイドによる『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』(CEメディアハウス)の「CHAPTER2 イクスプローシブ・キャリステニクス──5つの原則──」より一部編集・抜粋。


◇ ◇ ◇

監獄生活と決別した後、筋力や瞬発力をつけるために、世間でどんなトレーニングをやっているか見て回ったことがある。控えめに言ってもそこには混沌と退化しかなかった。

パワーやアジリティ能力を得るために、何世紀にもわたって使われてきた自重力トレーニング──たとえば、古式の拳法から引き継がれたメソッドなど──は影も形もなかった。代わりとなっていたのが、コーン、弾性バンドといった現代的な器具を使ってのトレーニングだった。

そもそも、いわゆる瞬発力トレーニングをやっている人がとてつもなく少なかった。機能的スピードやアジリティ能力を必要とする、格闘技とかフットボールなどのスポーツをやるアスリートであっても、ルーチンに補足的に加えているだけ。

ジムに搦め捕られたアスリートになると、その類のトレーニングは頭の片隅にもないように見えた。ウエイトやマシンによる外部荷重を用いたボディビルディング的動作を教えられ、分離させた筋肉(や、筋肉群を)を、ゆっくり、あるいは、なめらかなスピードで黙々と鍛える群れ。

機能的スピードやアジリティはどこに? と探し回ったものだ。

パワー(筋力×スピード)を出すには、多くの筋肉をすばやく統合的に動作させる必要がある。筋肉を分離させ、しかもゆっくり鍛えることは、実際には、すばやく動かない筋肉系や神経系をわざわざつくっていることになる。

以前、どこかで言ったことを繰り返そう。現代的なジムでのトレーニングは、アスリートをのろまにする! ちょっと考えれば、筋が通った話であることがわかるだろう。


トレーニングとは、外部荷重をゆっくり動かすことだ。このフィットネス観に肥満がプラスされ、だれも反論できない現実につながっている。わたしたちアメリカ人は、人類史上もっともスローにしか体を動かせず、しかも、反応が鈍い「種」になっているのだ。

その道を行く必要はない。あなたの中には超高速で体を動かすことができ、爆発的なパワーを即座に発揮できた古代世界のハンターのDNAが保存されている。

それを発現させるためのマニュアルがこれだ。このシステムには、それを支える無敵の原則が5つある。


・自重力を使う ・スパルタ戦士のように ・全身を対象にトレーニングする ・少数エクササイズに集中する ・漸進的に難度を高めていく

プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』と『プリズナートレーニング 超絶!! グリップ&関節編 永遠の強さを手に入れる最凶の自重筋トレ』でもお伝えしてきたことだが、それぞれを見ていきたい。

自重力を使う

なぜ自重力なのか? 器具がない監房内で20年にわたってトレーニングしてきたから自重力をありがたがっているわけではない。自重力を強調するのは、どんな運動特質を開発する場合も、もっとも優れたアプローチ法になるからだ。

最初の章で述べた3つの運動特質──パワー、機能的スピード、アジリティ能力──が高度なレベルに達しない限り、イクスプローシブアスリートとは言い難い。ところが、今のフィットネス界には、これらの運動特質を一緒に伸ばしていくものがない。


現代的な瞬発力トレーニングを、この本で伝えることになる自重力トレーニング(キップアップ、フリップ、マッスルアップ)と比較してみる。現代的な瞬発力トレーニングと言えば、以下の3つを思い浮かべるだろう。


ボックスワーク(プライオメトリックボックスジャンプやボックスプッシュアップがある) ・コーントレーニング(屋外や体育館にコーンを置き、ジグザグに走るトレーニング法) ・オリンピックリフティング(スナッチ、クリーン、ジャークのようないわゆる「速い」リフティング)

以上のトレーニング法が、イクスプローシブアスリートになるために必要な3つの運動特質をつくるものになるかどうかを確かめるために、質問を用意した。


パワー:筋力とスピードを必要とする動作か? ・機能的スピード:体全体をすばやく動かす必要がある動作か? ・アジリティ能力:高速で方向転換する必要がある動作か?

『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』35頁より

上の表をチェックしてほしい。これらの質問でスクリーニングすると、現代的な3ドリルが、どれも、「完璧な」瞬発力をつくるものではないことがわかる。



・ボックスワーク(プライオメトリクス)は、重力に逆らって負荷(体重)をすばやく動かすのでパワーを増やす。全身を動作させることから機能的スピードもつく。しかし、アジリティの本質である、体の角度を変化させる動作が含まれていない。ボックスを上下するシンプルな動作かそのバリエーションになるからだ。このように、ボックスワークにはアジリティ能力を伸ばす働きがない。

・コーントレーニングは、体の向きをすばやく変えていく動作だ。そのため、アジリティ能力を向上させる。全身をすばやく動かすので機能的スピードもついてくる。しかし、重力に対してほとんど抗うことがない──ランニングとそれほど変わらない──ため、かかる負荷が体重そのものに留まり、パワーを培うものにはならない。このかかる負荷の低さが、学校の授業でコーンドリルが採用される理由のひとつになっている。安全性が高いし、身体が弱くても参加できるからだ。

・オリンピックリフティングはパワーをつける。大きな筋力をできるだけ速く使うことが求められるからだ。しかし、ウエイトを上下させるだけなので、体の向きがほとんど変わらない。そのため、アジリティ能力を培うものにはならない。また、足が、床の上か床に近い位置に留まるため、脚を使った移動がない。つまり、機能的スピード(全身を使ったすばやい動作)をつけるものにもならない。

パワー、機能的スピード、アジリティ能力から成る爆発力。それは「完璧な」瞬発力と言ってもいい。それを一度に得ようとしても、以上の3ドリルにはどこか欠けるところがある。

ポール・ウェイド(PAUL "COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。

 『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』

  ポール・ウェイド [著]/山田 雅久 [訳]
  CEメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。