児童養護施設の子どもたちがつづった作文集「わがままは言わない」。親から受けた虐待や将来への不安が記されている=埼玉県社会的養護を考える会提供

 市民団体「埼玉県社会的養護を考える会」が首都圏の児童養護施設を対象に実施した調査で、出身者の大学・専門学校への進学率は45・5%にとどまった。文部科学省の2024年度学校基本調査によると、全国平均は87・3%。同会は「経済的理由から進学をためらうケースが多い」と分析し、給付型の奨学金を導入してサポートする方針だ。

 同会は今年6月、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県にある134施設に調査を依頼し、56施設から有効回答を得た。過去3年間に高校を卒業した534人について、大学・短大進学は25・3%(24年度の全国平均62・3%)、専門学校進学は20・2%(同24%)。都県ごとの進学率では東京都51%▽千葉県46・4%▽埼玉県43・5%▽神奈川県37・6%だった。

 「進学における課題」を複数選択可で尋ねたところ、精神的な自立(79・6%)が最も多く、生活費の見通し(64・8%)▽進学意欲の不足(53・7%)▽学習・学力不足(46・3%)▽学費の見通し(40・7%)――と続いた。高校卒業後に必要とされる支援・制度(複数選択可)は、メンタルケア(87%)、施設職員による伴走支援(81・5%)、生活費・学費(77・8%)の順だった。

 同会は「一般家庭と比べ、経済的な理由から大学進学に高いハードルがあり、学費、生活費に不安があることがわかった。奨学金で進学を支えたい」としている。同会によると、進学、就職しても短期間で中退、離職する児童養護施設出身者は少なくなく、メンタルケアや職員によるサポートが重要なことが浮き彫りになった。児童福祉法に基づき、職員によるアフターケアが義務づけられているが、人手や資金の不足を背景に十分行き届いていないという。

 教員や学生らで作る同会は23年に設立。他の施設で暮らす子どもや施設出身のボランティアらと交流を深めてもらおうと、定期的にキャンプを開いている。キャンプ参加者が心境をつづった作文集も発刊している。【山本太一】

児童養護施設

 親による虐待や親との死別、経済的理由などにより家庭で暮らすことができない原則2~18歳(22歳まで延長可能)の子どもが対象。全国約600施設で約2万3000人が生活し、職員数は約2万1300人(2023年10月現在)。入所者の7割が身体的・心理的虐待、育児放棄(ネグレクト)などの虐待を受けていた。

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