PublicDomainPictures-pixabay

<マイクロプラスチックが、うつ病や大腸がんの増加に? 国際共同研究で示されたことについて>

マイクロプラスチックが腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を変化させ、その変化のパターンがうつ病や大腸がんと類似していることが最新研究で示された。

本研究はオーストリア・グラーツにある「CBmed研究センター」が主導する国際的な共同研究プロジェクト「microONE」で実施されたもので、2025年の欧州消化器学会週間(UEG Week)で今月発表された。


本研究の筆頭著者であり、CBmedとグラーツ医科大学に所属するクリスティアン・パッハー=ドイチェ研究員は次のように述べる。

「ヒトと腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は密接な関係にあり、わずかな変化であっても健康に影響を及ぼす可能性があります。(...)結論づけることはまだ時期尚早ですが、実験で観察された変化は無視できるものではありません。注意深く見守っていくべきです」

マイクロプラスチックとは直径5ミリ未満の微細なプラスチック粒子を指し、近年、健康への影響に注目が集まっている。

食品、水、空気、衣類や包装などの日用品を通じて、誰もが日常的にプラスチックに曝露されているとパッハー=ドイチェ研究員が指摘するように、その粒子はすでに腸や血流など、ヒトの様々な部位から検出されている。

ヒトが1週間で摂取するマイクロプラスチックの量はクレジットカード1枚分に相当する可能性があることが先行研究で指摘されている。そのため、プラスチック汚染を深刻な公衆衛生問題として扱っていく必要があるとパッハー=ドイチェ研究員は警鐘を鳴らす。

研究チームは、健康な5人の被験者の便から腸内細菌を採取・培養し、5種類のマイクロプラスチック(ポリスチレン[スチロール樹脂]、ポリプロピレン[PP]、低密度ポリエチレン[LDPE]、ポリメチルメタクリレート[PMMA]、ポリエチレンテレフタレート[PET])にさらした。

これらのマイクロプラスチックは日常生活の中で一般的に曝露される濃度と、それよりも高濃度の2条件で試験を行った。


その結果、マイクロプラスチックに曝露された培養グループではpHが低下(酸性化)し、代謝活動の変化を示唆。そしてより詳細な調査の結果、細菌の構成も変化していることが判明した。

特に消化機能や腸全体の健康に関わる重要な細菌が影響を受けており、細菌の構成の変化によって産生する化学物質の量にも影響を及ぼしていた。

マイクロプラスチックは以下のような複数の経路で腸内環境に影響を与える可能性があるとパッハー=ドイチェ研究員は述べる。

• 栄養素と結合するため、微生物が変化する
• 化学物質を溶出し、ストレス因子として微生物の構成や代謝をかく乱する
• バイオフィルム(細菌など微生物でできた膜)を形成する菌に好まれる環境を提供し、腸内のバランスを変える

注目すべき点は、これらのマイクロプラスチックによる微生物構成の変化がうつ病や大腸がんなどの疾患と関連付けられてきたパターンを反映していた点だ。

直接的な因果関係はまだ証明されていないが、マイクロプラスチックの曝露が疾病リスクに及ぼす潜在的な影響を浮き彫りにしていると研究チームは指摘する。

アリゾナ州立大学バイオデザイン環境健康工学センター所長を務めるロルフ・ハルデン教授は、本誌に対して次のように評価する。

「本研究で、消費者が気づかぬうちに接触する破砕プラスチックが、健康に潜在的なリスクをもたらす可能性が示されました」

また今回の発見は、マイクロプラスチック曝露のような環境要因が腸内の微生物組成を変化させる可能性を示すとともに、うつ病や大腸がんの診断件数が過去数十年で増加している背景には、そうした環境要因が関与しているのではないかという疑問を投げかけるものだと、パッハー=ドイチェ研究員は述べる。


今後の医療への影響

プラスチックとマイクロプラスチックは日常生活にあまりに広く浸透しているため、完全に排除することはできないとした上で、他の環境リスクと同様に、潜在的な危険性を認識し、公衆衛生を守る行動が求められていると、パッハー=ドイチェ研究員は語る。

アリゾナ州立大学のハルデン教授も、次のように述べる。

「ヒトのマイクロプラスチック曝露と、それに対する規制がほぼ皆無である現状は非常に懸念されます。(...)継続的な曝露が無害だと考えるエビデンスはなく、異物を継続的に体内に取り込むことは、なんらかの健康リスクにつながると考えるべきです」

また、今回の研究結果は、将来的な医療分野にも重要な示唆を与える可能性がある。

「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は身体的・精神的健康の多くを調整しており、その変化は病気の予防、診断、パーソナライズ(個別化)医療など治療の在り方にも影響しうるものです。(...)ただしその前に、まずは生物学的影響の解明と、最も影響を受けやすく、リスクの高い層の特定が急務です」(パッハー=ドイチェ研究員)

曝露を減らすには?

木製の調理器具やガラス製ボトル、プラスチックフリーの歯科用品などへの切り替えを研究者らは提案する。ただし、最も重要なことは、生体モニタリングなどの研究支援であるとして、ハルデン教授は公共教育の重要性も強調する。


「マイクロプラスチック曝露の影響を理解し、リスク低減につなげるには、エビデンスに基づく規制が必要不可欠です。

(...)たとえば、多くのコーヒーチェーンが使用するポリエチレンでコーティングされた紙コップからは、1杯あたり数兆個のナノプラスチックが放出されているというアメリカ政府の研究もあります。

(...)再利用可能なマイカップを持参するだけでも、自身の健康とプラスチック汚染の抑制の両方に貢献できます」


【参考文献】
Christian Pacher-Deutsch, Microplastics found to change gut microbiome in first human-sample study, eug, October 07, 2025

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。