山梨の食文化を象徴する郷土料理「ほうとう」の魅力を引き立てる新しい調理器具が誕生した。山梨県産業技術センターが開発したほうとう用鋳物鍋が、2025年度グッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)を受賞。今後、製品化をめざす。
受賞した「甲州鉄器『ぐつぐつ』」は、シャープさと丸みを帯びた親しみやすさが調和したモダンなデザインが目を引く。機能面でも工夫が凝らされている。
最大の特徴は、鉄鍋としてはまれな口縁部の薄さだ。鍋底は約4ミリと通常の厚さだが、取っ手に向かって肉薄になり、口縁部は1.5ミリで、従来の鉄鍋の半分以下。熱効率や保温性に優れ、その上に、30%の軽量化を実現した。3Dプリンターなどを使って試作を重ね、鋳造の限界まで薄くすることに挑戦したという。
開発を主導した同センターデザイン技術部の主任研究員、串田賢一さん(55)は「2ミリぐらいで厚めに鋳造した後に削る方法もあるが、鋳肌(いはだ)のよさが失われ、コストもかさむ。最初から1.5ミリにする鋳造技術にたどりつくまでが一番大変でした」と振り返る。
鍋は1人用で、直径18センチ、高さ7センチ。本体の重さは878グラム。重さ660グラムの上蓋(うわぶた)を回すことで蒸気を調整できる独自の蒸気弁構造にも、研究を重ねた成果が反映された。
上蓋上部の取っ手には、調理時や食べる時に使うおたまが置ける。取っ手を支えに蓋を立てても置ける。機能性とデザイン性を両立させた、独自性の高いつくりが随所にみられる。
センターが開発に着手したきっかけは、山梨県が2021~23年度に実施した調査研究だった。県内外の人々が「山梨の暮らし」に価値やあこがれを感じていることがわかり、県民の暮らしを象徴するものの一つとしてほうとうに着目。「山梨の郷土料理として広く知られているけれども、専用の調理器具はなく、オリジナルの鉄鍋もないよね、という話になった」と串田さん。「山梨らしさを表現できる、ほうとう用の鍋をつくろう」と目標が定まった。デザインなどは、センターの客員研究員でプロダクトデザイナーとして活躍する大沼敦さん(56)と連携して考案した。
グッドデザイン賞の審査委員による評価コメントには「現状のほうとうを食べるための鍋が持つ非現代性に着目し、今の時代でも日常的にほうとうが自然に食べられる工夫が施されている」「『ほうとう』が今後も日常でありつづけるために、この鍋が重要な役割を担う製品となることを願っている」などとある。
今年5月に意匠登録を完了し、今後、製造する意思を持つ企業とのライセンス契約を経て製品化、実用化をめざす。串田さんは「『山梨らしさ』を付加価値としたものづくりを目標に掲げ、考えて形にしたものが客観的な評価を得られたことは非常に喜ばしい。願わくば県内の企業に製品化していただき、県の経済に貢献してもらえれば一番ありがたい」と話す。
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