「『和解、おめでとう』と言われますが、問題は山積なんです」
現存する国内最古の学生寮、京都大学吉田寮(京都市左京区)に住む中国の留学生、ハン・イーファンさん(27)は困惑する。
大正初期建築の同寮「現棟」と食堂の明け渡しを京大が求めた訴訟は8月、和解が成立した。
2019年、耐震性を理由に京大は退寮に応じない寮生を提訴。寮生は「適切に補強すれば使用を続けられる」と請求の棄却を求めた。24年の1審判決では、老朽化は明け渡し理由にならないと判断され、寮生の一部勝訴後、双方が控訴した。
和解では、現棟に住む8人は26年3月までに一時退寮し、大学は5年以内に耐震工事を完了させるよう努めることが決まった。この期間中、大学側は代替宿舎を用意する。工事後、在寮資格がある希望者の入居も認められたが、寮生は不安を抱えている。
和解条項には「建て替えを含む」とあり、調査次第で現棟がなくなる可能性があるためだ。危機感の裏には、大学との対話が失われた現状を危惧する思いがある。
古くから寮は大学と交渉の場を持ってきた。しかし、対話を教育の根幹と掲げる京都大学が15年に交渉破棄を通告。18年を最後に途絶えた。
和解は話し合い再開の期待などから受け入れられたが、対話は工事に限定されると考える寮生は多い。
同じ敷地内には、耐震性が確保されている新棟が15年に完成した。寮生は入退寮など自治権を主張するが、大学は新入生らの入寮すら認めておらず訴訟外の課題も残る。
補修方法など詳細は詰められておらず、和解での法的義務が生じない問題も含めて対話なしでは進まないと寮生は考える。
「全てのスタートが対話の再開だが、和解したのにそこにすら立てていない」と寮生の吉田麟太郎さん(23)は嘆いた。
約100人が住む寮には、問題を話し合いで解決する「話し合いの原則」がある。韓国の留学生、イ・ジウォンさん(32)は「トップダウンで決めると後で分断を生む。納得いくまで話し合うしかないことをみんな知っている」と語り、「それは民主主義の根幹なはず」と語気を強めた。
和解成立時、大学は「現棟に居住する学生の退去が実現する見通しとなったことは大きな進展」と発表。それから2カ月、働きかけのない中、寮の未来に向けて対話再開の訴えを寮生たちは続けている。【山崎一輝】
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