国立がん研究センターなどは30日、食道がんの手術で、現在の標準治療である開胸手術に対し、体への負担が少ない「胸腔(きょうくう)鏡下手術」でも同様の治療効果が得られるとの結果を発表した。日本食道学会は近く、診療ガイドラインで胸腔鏡下手術も標準治療に位置づける。
食道がんは年に約2万7000人が新たに診断され、男女ともに患者数が増加傾向にある。がんが食道内側にとどまっている場合などステージ1~3では手術が主な治療となる。
胸の下を十数センチ切る従来の開胸手術と、15年ほど前から広がる胸腔鏡下手術の長期的な効果の差はこれまで確認されていなかった。胸腔鏡下は、器具を入れる複数の穴が1センチ程度と体への負担が少ない一方、医師が直接臓器を見られず難易度は高いとされる。
研究チームは、ステージ1~3の300人の患者を無作為に二つのグループに分けて、手術結果を比較した。その結果、術後に3年間生存する割合は、開胸では70・9%だったのに対し、胸腔鏡下では82・0%だった。術後3年時点で再発せずに生存していた割合は、開胸で61・9%、胸腔鏡下は72・9%。胸腔鏡下は開胸に比べて劣っていないと結論づけた。
手術中に起きる呼吸器の損傷や、術後の肺炎や縫合不全など合併症の有無については明確な差がなく、胸腔鏡下も安全に実施できることが明らかになった。術後3年時点で呼吸機能の低下があった患者は、胸腔鏡下が有意に少なかった。
日本食道学会は、週内にも診療ガイドラインの速報版で、胸腔鏡下手術を現在の「弱く推奨」から「強く推奨」に変える方針だ。
記者会見した浜松医大の竹内裕也医師は「今回の臨床研究では、日本内視鏡外科学会の認定を得た医師か技量のある医師の指導下で手術することになっていた」と述べ、速報版にも明記するとした。その上で「各医療機関や医師の状況に応じて手術方式を選んでほしい」と話した。
今回の成果は英医学誌ランセット姉妹誌に掲載された。【渡辺諒】
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