本山修験宗総本山・聖護院(京都市左京区)の前で建設中のマンション計画は景観法に違反しているなどとして、宮城泰年(たいねん)門主ら周辺住民12人が6日、民間検査機関「日本ERI」(東京都港区)や市建築審査会に対し、建築確認の取り消しなどを求めて京都地裁に提訴した。

訴状などによると、建設地は約3千平方メートルで、東本願寺を本山とする真宗大谷派が所有する。民間検査機関が2024年6月に建築確認した後、同派と三菱地所レジデンスが73年間の定期借地契約を結んで建設を始めた。5階建て(高さ15メートル)の80戸で、完成は26年8月の予定。もとはコインパーキングだった。
真宗大谷派によると、前払い賃料として20億5千万円を受け取ったという。

原告側はこれまで真宗大谷派に再検討を求める要望書を出したほか、建築確認を取り消すよう市建築審査会に審査請求したが棄却された。
原告側は、建設地近くには文化財としても宗教上も重要な聖護院があり、8月の大文字送り火で知られる如意ケ嶽を含む東山三十六峰を望む景観や風情ある町並みを保つ必要があると主張。マンションができると、生活環境や景観的利益を侵害されると訴える。

市の条例で一帯は「山並み背景型美観地区」に指定されている。「周辺への圧迫感の低減」を図らなければならないが、原告側はマンションの外壁と隣地境界線の間隔は約1メートルしかないことなどから、マンション計画は違法だと主張する。

聖護院の境内では山伏による採燈大護摩供(さいとうだいごまく)などの行事が営まれる。境内に住む宮城門主は取材に「宗教行事が高いところからのぞかれるのは好ましくない」と話す。護摩供をはじめ、聖護院で営まれる宗教行事がマンションの住民らに見下ろされる事態は「宗教活動の弊害になる」と心配する。護摩を焚(た)いたときに立ち上る灰をマンションの住民らが嫌がり、苦情が出る恐れもある。「宗教行事が行えなくなってしまうかもしれない」
日本ERIは「訴状が届いておらず、事実確認が取れていないのでお答えできない」としている。
「送り火、見えなくなる」
聖護院の前で建設が進むマンション計画。提訴後、周辺住民らは会見した。「景観が損なわれる」「宗教行事ができなくなる」と懸念する。

真宗大谷派によると、建設地は門徒で実業家の男性から1932年に寄進された。「聖護院別邸」として故・大谷光暢元門首の親族らが暮らしたが、同派と大谷家が対立した「お東紛争」で明け渡された。その後、コインパーキングになり、同派と三菱地所レジデンスが定期借地契約を結んで昨年9月から5階建てマンションを建て始めた。
会見した住民らは景観や宗教上の尊厳を反対の理由に挙げた。原告のひとり、上妻ガクジさん(72)は約15年前、建設地の隣に父が建てた家に戻ってきた。毎年8月に家族が集まり、2階の窓から見える大文字送り火は「当たり前の風景」だった。
今夏は送り火が見えたが、最近、「大」の字のある如意ケ嶽が見えなくなった。「残念。毎年楽しみにしていたのに」と声を落とす。

これまでも住民らは「聖護院・黒谷の景観を守る会」をつくり、建設反対を訴えてきた。同派には計画の見直しを求めた。日本ERIがした建築確認の取り消しを求めた審査請求人は200人以上に上った。


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