トークショーで寄せられた質問を聞く池添素さん=東京都新宿区の紀伊国屋書店新宿本店で11月3日、太田敦子撮影

 文部科学省が10月公表した調査で、2024年度に不登校とされた小中学生は過去最多の35万人超となった。

 不登校などに悩む親子約4000組の相談に応じてきた池添素(もと)さん(75)は、東京都内で開かれたトークショーで、不登校の子を持つ親たちに語りかけた。

 「親の開き直り方、どれだけ腹を据えるかで未来は変わってきます」

ひとり闘う35万人の子どもたち

 池添さんは京都市内のNPO法人「福祉広場」理事長を務める。京都市職員を経て1994年に前身となる相談室を開設した。

 50年にわたり親子に寄り添い、寄せられる相談は国内にとどまらない。

 トークショーはジャーナリストの島沢優子さんが池添さんを取材した著書「不登校から人生を拓く」(講談社)の出版に合わせ、紀伊国屋書店新宿本店であった。

不登校の小中学生数の推移

 会場では渦中の親たちが時には涙ぐみながら、池添さんの言葉に耳を傾けていた。

 「ひとりで闘っている子どもの数なんだな、とハッとしました」

 登壇した池添さんは不登校とされる35万人の子どもたちに言及しつつ、圧倒的多数である登校している子どもたちのなかにいる、なんとか登校できている子どものことも気になったという。

 「行き渋っている子、無理やり折り合いをつけて行く子もたくさんいる。学校は行ければ良いという場所ではありません。安心安全で楽しく学べる場として保証されているのでしょうか」

 そう問いかけた。

「ゲームは敵じゃない」

 会場からさまざまな質問が寄せられたが、なかでもゲームやインターネットに没頭し、昼夜逆転の生活に陥っている子どもへの不安が目立った。

 子どもにとってはゲームは手応えと達成感が得られるだけでなく、オンラインゲームなどでは褒めてもくれる人もいる。

 それは「大人たちが与えられていないもの」と話し、ゲームを味方につけて、子どもが発するSOSをキャッチすることが大事だと説いた。

 昼夜逆転への心配については「夜元気ならOK。まずは子どもの心と体が元気になることが最初の一歩。目の前の子どもをつい変えさせたくなるけれど、ぐっと待ちましょう」と励ました。

池添素さんを取材したジャーナリスト、島沢優子さんの著書「不登校から人生を拓く」(講談社)=11月6日、太田敦子撮影

必要なのはこの一言

 不登校は親の甘やかしが原因――。

 池添さんはいまだに根強い論調を真っ向から否定する。

 むしろ、子どもたちが「しつけ」という言葉のもと、幼い頃から大人の都合通りに生きてきたからだと捉えている。

 「『学校に行きたくない』という発言は『頑張って生きてきたけどもう無理』(と同意)だと思うんです」

 本当は「よくぞ自分で言えた」とほめてあげられるとベストだが、「うん、わかった」の一言でいいという。

 「自分の気持ちを出した時にわかってもらえた、自分で決めたことが尊重されたという経験で、育つ力がついていくのです」

 池添さんは、学校は優れた社会資源だと認める一方で、自分が壊れるほど無理してまで行くところでもないと考えている。

 「学校に行けなくても、親の開き直り方、どれだけ腹を据えるかによって未来の展開は変わってきます」と呼びかけた。

学校に行くことが目標ではない

 池添さんは最近、懸念していることがあるのだという。

4000組の親子の相談を受けてきたNPO法人「福祉広場」理事長、池添素さん=東京都新宿区の紀伊国屋書店新宿本店で11月3日、太田敦子撮影

 それは「不登校ビジネス」の存在だ。

 コーチングやカウンセリングで「必ず学校へ行ける」などとうたう事業者にすがり、高額を支払って振り回される親の姿を少なからず見てきた。

 少子化が進む中でも増え続ける不登校は、社会の大きな課題になっている。

 「学校に行けることが目標になってはいけません。不登校は親や学校にとって回り道かもしれないけれど、実はその子どもの成長にとっては一番の近道なんです」と指摘した。【太田敦子】

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