時間が記されたネイルオイル(中央下)、硬さの異なるkenzan(同上)、リニューアルしたヘアケア製品。どれもシンプルなデザインが特徴だ

仕事をする時、家事をする時、いつでも視界に入ってくるのが自分の爪だ。ささくれができていたり、はたまた華やかなアートが施されていたり。爪の状態にその人の心もようや趣味嗜好が表れる――。サロン運営やヘアケア製品の開発など美容事業を総合的に手掛ける「uka(ウカ)」の最初の商品、ネイルオイルはネイリストとして日々たくさんの指先を見つめてきた渡邉季穂代表のそんな気づきから生まれた。2009年の発売から約130万本を売り上げた大ヒット商品だ。

ネイルオイルは爪や周囲の皮膚を保湿して、ささくれや二枚爪などのトラブルを防ごうというもの。ukaではパッケージに7時15分、13時00分、18時30分、24時45分と時間帯を記している。忙しくてつい塗り忘れてしまうオイルに「塗る理由をつくりたい」という思いからだ。香りも時間に合わせて変えている。13時00分なら午後もうひと頑張りできるように、集中力を高めるレモンとミントが香る。

2009年から経営に携わるukaの渡邉弘幸CEO。自身もヘナで白髪染めしている

使い手の立場から商品を開発できるのは「uka」が美容室発祥のブランドだからだろう。ルーツは理容師だった季穂さんの祖父が太平洋戦争後まもなく創業した「理容むこうはら」にさかのぼる。1970年代に2代目がユニセックスのヘアサロン「エクセル」に転換し、ネイリストとして季穂さんが加わった。2009年にリブランディングを実施し、現在の「uka」が誕生した。

「uka」は今、東京ミッドタウン(東京・港)内の六本木店をはじめ、都内に5カ所のサロンと全国に13の店舗を持つ。「サロンには年間十数万人のお客様が来る。十数万回の施術があるということは、十数万回お客様の『悩み』や『弱み』に向き合っているということなんです」。こう語るのは季穂さんの夫で、最高経営責任者(CEO)の渡邉弘幸さん。ukaの製品開発は机上の議論ではなく、施術や顧客との会話の積み重ねから生まれると強調する。

爪に続いてukaが注目したのは頭皮だった。ヘアサロンのスタッフとのミーティングで「頭皮に残る染毛剤でアレルギー反応を起こす人が増えている」という話が出た。一方でネイルアートを楽しんでいる人の間には「爪を傷めずに思い切り頭を洗いたい」という需要も。そこで、指をあまり使わなくても頭皮をすっきり洗えるようにとブラシ「kenzan(ケンザン)」シリーズを開発した。

頭皮ケアとヘアカラーを同時にかなえるとうたう「ウカヘナ」。パウダー状のヘナを水で溶いて塗布する

こちらも16年の発売から10年足らずで約260万個を売り上げた。ヒットの要因は、首や肩の凝りもほぐせるという口コミが広がったことだ。パソコンやスマホを長時間使う現代人ならではの悩み。こうした感想や意見を直接聞けるのも、サロンという拠点があるブランドだからこそだ。顎関節の専門医と組んで、筋肉のコリをほぐすためのモデルも発売した。

次々とヒット商品を生み出していく中で、弘幸さんが次第に意識し始めたのは「自分たちの商品が世の中にどんなインパクトを与えているのか」。使い心地が良くて効果を感じられるのは当然として、地球や社会に負荷をかけていては持続性がない。そこで行き着いたのが、自然由来の素材に立ち返るという方針だった。

23年に発売したヘアカラー剤は化学染料を使わず、古くから植物性の染料として使われてきた「ヘナ」を取り入れた。「髪の表面をつややかに見せることは科学の力でいくらでもできる。でも、本当に大事なのは頭皮の環境を整えること」と弘幸さん。ヘナはインドの伝統医療であるアーユルベーダで重用されてきた薬草の一つで、地肌や髪を保護する働きが期待できる。水に流しても環境を汚さない。

ヘナの主産地はインドだが、沖縄県の石垣島で化学肥料を使わない栽培農家と出会い、商品につながった=uka提供

ヘナ染めというとオレンジ色に染まるイメージが強いが、インディゴと合わせることでダークトーンの髪色も出せるようになった。ホットペッパービューティーアカデミーの田中公子研究員によると「白髪染めは40歳前後から、60歳代まで続ける人が多い」。物価高の影響で、自宅で染める回数を増やす人も一定数いるという。長く付き合っていく製品だからこそ、髪にも環境にもやさしい選択肢が求められている。

ヘナとインディゴは沖縄・石垣島産の原料を使う。どこで取れ、どう加工されたものなのか。「自分たちが理解できていないものをお客様に出すべきではない」(弘幸さん)。24年にはシャンプーやトリートメントなどのヘアケア商品も刷新。伊豆半島のクロモジやフノリ、山形県産のコメ発酵液など選び抜いた国産原料を採用した。パッケージもサトウキビ由来のバイオマス素材を使っている。

ukaにとって次の挑戦は「循環」だ。シャンプーなどに使う伊豆・下田のクロモジは抗菌作用のあるリナロールを豊富に含む。シャンプーの成分として優秀だが、それだけではない。弘幸さんは「クロモジが育つように森林の環境を整えていけば、やがて土壌が改善し、海の水質も良くなる」と期待を寄せる。「人間も地球の一部。自然が回復するメカニズムに従えば、自分たちの体も良くなっていくのではないか」

近年、世界の美容業界で注目を集めるのが「クリーンビューティー」という考え方だ。明確な定義はないが、人間の健康にも地球環境にも負荷をかけないことを重視する。ukaの歩みはこの潮流にぴたりと重なった。海外ではこれまでオンラインショップやセレクトショップで販売されていたが、25年9月に米国市場に正式に進出した。国際ビジネスを統括するヴィー・リーさんは「世界でもここまで網羅的なラインアップを持つクリーンなブランドは少なく、待ち望まれていた」と話す。爪から始まったukaの物語は今、世界へ広がっている。

平野麻理子

山田麻那美撮影

[NIKKEI The STYLE 2025年11月2日付]

【関連記事】
  • ・コーセー、環境配慮ブランド「雪肌精ブルー」の化粧下地 8月発売
  • ・仏イヴ・ロシェ、日本の販売店3割増の3000店 環境配慮の化粧品販売
  • ・ロレアルやネスレ、取引先に「バイオシフト」迫る
■NIKKEI The STYLEは日曜朝刊の特集面です。紙面ならではの美しいレイアウトもご覧ください。
■取材の裏話や未公開写真をご紹介するニューズレター「NIKKEI The STYLE 豊かな週末を探して」も配信しています。登録は次のURLからhttps://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=S004

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。