お弁当や飲み物、土産品……。ターミナル駅の売店には、大量の品々が陳列棚に並ぶ。それらは、売店まで商品を運ぶ人がいてこその光景だが、新たな課題も浮かび上がってきた。課題解決に向けた取り組みが始まっている。

 JR東海は、駅構内の売店などに自動で商品や荷物を運ぶロボットを開発中だ。10月20日から、営業時間内のJR名古屋駅のコンコースで実験走行が始まった。

【動画】名古屋駅で実験走行する、JR東海の自動運搬ロボット=松本敏博、大平要撮影

 今のところ駅コンコースの荷物運搬はジェイアール東海物流が担っているが、従業員は60代以上のアルバイトや派遣社員が大半。1日あたりトラック40台分の商品を、20人ほどの従業員が台車で運んでいる。

 将来見込まれる人手不足に対応し、従業員の負荷軽減を図る狙いで、JR東海とジェイアール東海物流、名古屋大などが数年前から共同で着手したのが、自動搬送ロボットの開発だ。

 試作機は、後ろの台車に最大300キロの荷物を載せて牽引できる。作業員に付き添われ、コンコースを時速1.8キロ(最高3.6キロ)でゆっくりと進む。東海道新幹線の初代0系をモチーフにした車体デザインに加え、人混みの中でも目立つよう頭上に取り付けられたあんどんが目を引いた。

 「荷物を運搬しています」。走行中は、日英中3カ国語の自動音声でアナウンスし、目の前に人が飛び出すと、下部のセンサーで検知して自動で停止する。実用化のためには、混雑する駅でも人の往来を妨げず、安全に走行できるかが課題だ。

 実験では、駅の天井に設置されたセンサーと車体の360度カメラで人の流れや周囲の状況のデータを収集。より通行の妨げにならないルートの選定に生かすという。

 試作機は、営業時間外の駅での実験走行を経て、始発や終電付近の人通りが少ない時間帯での検証に移っている。

 JR東海技術開発部の筑波聡・上級上席研究員は、「今のところは懸念していたより邪魔にならず、お客様の反応もいい。人が多くなったときにも運搬作業を継続できるか、検証しながら進めていきたい」と話した。

人力の台車はあのメロディーで注意喚起

 「♪ファソラシ♭ファシ♭ ファソラシ♭ファシ♭」

 JR名古屋駅のコンコースやホームにいると時折、軽快なメロディーが近づいてくるのが聞こえる。

 音の方向へ目を向けると、売店への商品搬入のため台車を引っ張るジェイアール東海物流の担当者の姿があった。

 メロディーを流す装置を台車に取り付けたのは10月から。名古屋を始め東京、品川、新横浜、静岡、浜松の各駅で使われている。JR東海野球部の応援曲「Shining Moment」をアレンジし、元気が出るような曲調にしたという。

 従来は、担当者が周囲の通行人に注意を呼びかけながら台車を引っ張っていた。しかし、雑踏で声が届かなかったり、外国人観光客の増加によって多言語での対応が必要になってきたり。「遠くからでも台車の存在が分かるようになればいい」と、昨年末から検討を重ねてきたという。

 名古屋駅で使う台車は、荷物を積んだ状態の重量が最大約500キロにも及ぶ。多くの人が行き交う中で安全に運ぶために注意喚起は不可欠だ。

 メロディーの導入とともに人工知能(AI)による自動音声で「台車が通ります、ご注意ください」と日本語と英語のアナウンスも流すようにした。いずれも台車を扱う担当者の負担軽減も考慮した。

 ジェイアール東海物流で駅物流名古屋営業所に所属の繁村幸信さんは、「最近は音楽を聴いている人が多く、僕らの声ではあまり聞こえていない」と感じていたという。

 自動搬送の検証が進むものの、人力による運搬は今後も欠かせない。メロディーの導入について繁村さんは「曲が流れることで外国人の方に気付いてもらえるようになった。ずっと声をかけ続けるよりも楽になっている」と話す。

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