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<極限の監獄で研ぎ澄まされた「キャリステニクス」が、真の力を解き放つ理由について>
日本でも定着した「自重トレーニング」。そのきっかけは、2017年に邦訳版が刊行された『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』(CEメディアハウス)だった...。
元囚人でキャリステニクス研究の第一人者ポール・ウェイドが語る、筋肉について。第3章「監獄アスリートのマニフェスト」より一部編集・抜粋。
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自重力トレーニングは有用で機能的な運動能力を発達させる
キャリステニクス[calisthenics/自重力トレーニング]は究極の機能トレーニングであり、囚人たちが熱狂的に受け入れた理由のひとつがこれだ。
監獄内でトラブルになった時は、ちゃんと機能する体が必要になる。ナイトクラブであれば見かけ倒しでも通用する。しかし、監獄の中で自分の体を自由に操れなければ、たちまち餌食になる。
自然界にバーベルやダンベルを上げたり下げたりする動物はいない。対象物を動かす前に求められるのは、自分の体をコントロールし、動かす能力だ。
走ったり、戦ったりする時の脚には、胴体の重さを支える筋力が求められる。背中と腕には、相手を持ち上げたり、押しのけたりするパワーが求められる。
「強い」の意味が違うのだろうが、ボディビルダーの多くがこの事実を理解していないのは悲しいことだ。そして、対象物を動かすトレーニングに終始している。
時間をかけて練習すれば重量があるウエイトを持ち上げる動作には秀でてくるだろう。しかし、自分の体を動かすという運動が持つ主目的を無視しているし、最終的には損なうことにつながる。
わたしは、227キロを背負ってスクワットできるのに、老人のようにぜいぜい喘ぎながら階段を上る太っちょのトレーニーを見たことがある。
筋肉がいびつかつ不自然に発達したため、思い通りに髪に櫛を入れられなくなった哀れなパワーリフターも知っている。彼がベンチプレスできるのは181キロだ。
キャリステニクスは、こういった運動障害には結びつかない。本質的に、自由に動く体を手に入れるためのトレーニングだからだ。
対象物を動かすのではなく、自分の体を対象物にして筋肉を鍛えるため、キャリステニクスの上級者になることは、敏捷でしなやかな体になっていくことを意味している。
自重力トレーニングは筋力を最大化する
キャリステニクスは効率性が高いエクササイズだ。個々の筋肉や筋肉の一部を鍛えるのではなく、筋肉、腱、関節、神経系を統合されたひとつの単位として動作させるからだ。その結果、筋肉にとどまらず、腱、関節、神経系を同時に鍛えることになる。
動作におけるこの相乗作用がめざましい筋力をつくり上げる。ウエイトが専門のトレーナーは、波打つような筋肉を持つことが筋力の源泉になると考える。
これは、ボディビルディングの影響を受けているからだろう。しかし、筋力の源泉になるのは、実際は、筋細胞を発火させる神経系であり、筋力やパワーは、主に神経系の情報伝達効率に左右されている。
肥大したボディビルダーのそれと比べると小さい筋肉なのに、強い筋力を発揮する。そういった人たちの筋肉は、神経系が開発されている。
強さを手にした男性のだれもが、真のパワーは、筋肉の大きさよりも関節や腱の強さから生まれると語る。
キャリステニクスが筋力を効率的に発達させるもうひとつの理由は、複数の筋肉群を協働的に動作させるからだ。
例えば、スクワットは、大腿四頭筋だけでなく、大臀筋、小臀筋、脊柱、股関節、腹部と腰、さらにはつま先の筋肉まで働かせる。正しく行うブリッジでは100以上の筋肉が働くことになるのだ!
この事実は、上記の理由「自重力トレーニングは有用で機能的な運動能力を発達させる」と完全に重なる。なぜなら、わたしたちの体は、複合的、全体的に動作するかたちで進化したからだ。
多くのボディビルディングの動作(特にマシンで行われるもの)は、ある筋肉を人工的に分離して鍛えるので、不均等な発達と偏った機能性をつくり出す。
ボディビルディングとウエイトトレーニングの多くは、最終的に、ある位置にロックする。これは、身体システムの比較的小さな領域(あるいは個々の筋肉)がエクササイズの対象となることを意味している。
しかし、キャリステニクスでは、体全体を動かさねばならず、そのため、筋肉の協働力や相乗力、バランス力、そして精神的な集中力が必要になる。これらのすべてが、筋力だけでなく、神経を鍛え、発達させる。
ポール・ウェイド(PAUL"COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で 〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。
『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』
ポール・ウエイド [著]/山田 雅久 [訳]
CEメディアハウス[刊]
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