中国の偉人、孔子の論語に従えば「子曰(いわ)く、吾(わ)れ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う」なので、不惑は40代になってから。30代がまだ惑うのは古代から当たり前なのかもしれません。

そんな30代に光を当てた連載「惑う30代 成長の盲点」を通じて見えてきたのは、板挟みや重圧を受け止めつつ必死にもがく今の中堅世代の姿です。

社員の年代構成のひずみや根深い日本型雇用、出産を経て女性の収入が減る「母の罰」といった問題は、裏返せば日本経済や企業にとって成長のヒントでもあります。

連載を担当した記者3人に普段はあまりお見せすることのない取材のこぼれ話や記事に込めた思いを語ってもらいました。

(経済・社会保障グループ次長 倉辺洋介)

(上)「中堅がいない」職場 採用抑制でひずみ、30代は昭和と令和の板挟み


30代の中堅がいない――。日本の職場からこんな声が上がる。パーソルキャリアの桜井貴史doda編集長は職場の30代不足を放置すれば「企業文化や取引先との関係性、技術の継承が途絶え、中長期的に企業が強みを失ってしまう」と警鐘を鳴らす。30代不在が若手の離職を招く人手不足の悪循環に陥れば、企業の成長もおぼつかない。…記事を読む

今回の取材では多くの30代の方にご協力をいただきました。かくいう私も2010年卒の30代で、就職活動はリーマン・ショックの影響を大きく受けました。

当時は新卒採用を減らしたり中止したりする企業が相次ぎました。内定取り消しが社会問題になり、卒業間近まで就職活動を続ける同級生もいました。

リーマン震災世代は中堅となり職場を支える立場になっています。若手のころと比べて社会や社内の善しあしが分かり、見える景色も広がっているでしょう。

取材では「上司の気持ちも分かるので、自分の本当の気持ちを伝えない」との声を何度か聞きました。

とある30代の方からは「良くも悪くも今の中堅は我慢強い」との話も聞きました。その言葉には仕事への責任感を持つとの意味だけでなく、会社に期待しない「諦め」のニュアンスも含まれていました。

役割や責務を果たすのであれば、仕事に年齢は関係ないでしょう。それでも生まれ育った時代によって価値観や考え方は異なります。企業の文化や強みを将来につなぐためには世代間のギャップをいかに埋めるかが重要だと感じます。

最近は中堅が退職する職場も多いようです。長年働いてきた中堅がなぜ辞めてしまうのか。突然に見える退職は「声なき声」を拾えていなかったためかもしれません。

(池田将)

(中)M字カーブ消えた30代、誤算は家計負担 「母の罰」に加え塾・住宅費も


いまの30代は結婚・出産期に働く女性が減少する「M字カーブ」がほぼ解消した世代に当たる。仕事で脂が乗る30代が共働き育児に取り組める社会を目指し、官民を挙げた働き方改革が進んだ。誤算は家計の負担も30代に集中したことだ。夫婦「2馬力」で働けど、暮らしは楽にならない構図がある。…記事を読む

今年30代の仲間入りをし、これから子育て期が始まるタイミングの私にとって家計の負担増は決して他人事ではありません。住宅の購入を一度は検討したものの、ローン返済の負担を考えると夫婦2馬力でも「余裕のある暮らし」とはいきません。

親の世代は「専業主婦の妻・働く夫」というモデルが一般的で、1馬力でも子どもを大学まで通わせ、マイホームも建てることができました。その方法をそのままなぞることは難しいのが現状です。

ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「自分も親にしてもらったように子どもが小さい時はそばにいてあげたい、と数年間専業主婦やパート勤務を選ぶ女性は多い」と明かします。

半面「今は人生の3分の1が年金頼みの時代。男女問わずキャリアを継続することが重要で、離職はそのまま年金額の低下につながる」と強調していたのが印象的でした。

キャリアの継続は大事ですが子どもが生まれれば育休、保育園のお迎え、小学校に入れば勉強をみるなど、これまで通りの働き方を続けることは難しくなります。男性の育児参加が進んだとはいえ、女性にしわ寄せが向かいやすい側面があることは否定できないのが現実でしょう。

取材先には「子どもが生まれると子どもへの『推し活』が始まる。損得なしにお金を使うようになる」と言われ、妙な納得感がありました。

物価上昇が当たり前の今、実質賃金が安定的にプラス圏で推移する経済の好循環をつくることに政府は躍起になっています。私たち30代が男女ともに納得いくキャリアを築き、多少は余裕のある理想の生活ができるかも、その成否にかかっていると改めて実感しました。

(内山千尋)

(下)「働かぬ万年課長」を見限る中堅、JTCに別れ 昭和型雇用が阻む成長


年功序列や終身雇用に代表される日本型雇用を続ける企業をJTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)と呼ぶ。多様な働き方や貢献に即した報酬が求められる時代の変化に多くの企業が対応できていない。安定雇用の見返りに滅私奉公を求めた日本型雇用を脱した先に、企業と社員がともに成長する未来がある。…記事を読む

取材開始当初の連載の仮タイトルは「30代はつらいよ」でした。47歳の私に取材班への参加の打診があった時は「何を言う。就職氷河期世代(40〜50代)のほうがつらいぞ」と内心思いました。

ところが最初の会議に臨んで30代の記者2人の説明を聞くと「おや」「なるほど」という気持ちが強くなりました。

昭和を引きずる氷河期世代の働き方と、Z世代の新しい就業観との板挟み。リーマン・ショックや東日本大震災に伴う採用抑制で中堅が少ない職場。子育てや家事と仕事の両立の苦労。増える兆しのない給料……。

様々な悩みを抱えているのに「氷河期」「Z世代」のように注目される世代に比べるとどうも光があたらない。なんだか報われない30代の姿が浮かんできました。

自戒を込めて言えば、管理職にあたる氷河期世代は低い求人倍率の中でようやくつかみ取った就職先に「安定」を求める傾向があるのかもしれません。上の世代の背中を30代はどうみているのでしょうか。

一対一の「1on1」面談などで中堅の悩みに上司がきちんと対応している、という企業もあると思います。でも、その上司が大胆な見直しに取り組める環境を経営陣は整備しているでしょうか。単なるガス抜きになっていませんか。

そういうところ、中堅社員も若手も「ちゃんと見ている」かもしれません。

(高岡憲人)

【惑う30代 成長の盲点 読者調査編】

  • 30代社員の苦悩「会社は分かってくれない」 日経調査で浮かんだ本音
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