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猫が描かれたストーンアート。子どもから大人までが手がけた力作がそろった=2025年11月8日午後2時11分、佐賀県唐津市鎮西町、岡田将平撮影

 佐賀県唐津市沖の離島・加唐(かから)島に海を望むカフェがある。島ゆかりの女性が一念発起して家族とオープンし3年。観光客らが訪れるが、もっと島でゆっくり過ごしてほしいと、石に絵を描いた「ストーンアート」を活用した新たな仕掛けを始めた。

 朝市で知られる唐津市呼子町からフェリーで20分弱で着く加唐島。8日、海の近くにある神社で、井川えりなさん(27)が「漁師さんたちの船が島の前に出て、『船パレード』をする。大漁旗を掲げて、すごくかっこいい」と毎年夏にある祭りの紹介をしていた。

 井川さんは海を望む高台でカフェ「Selfish加唐島Café」を営んでいる。この日は県などが催した「加唐島体験会」。加唐島や市内の別の離島などの親子ら二十数人を案内していた。

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加唐島にある八坂神社の説明をする井川えりなさん

海の眺望、百済王の歴史、魅力さまざま

 加唐島は猫が多いことで知られ、猫目当てで島を訪れる人がいる。この日、井川さんも黒猫の着ぐるみを身にまとった。

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加唐島の猫たち

 ただ、井川さんが伝えたのは、猫だけではない島の魅力。起伏の多い島は、海をきれいに見渡せる場所も多い。となりの離島、松島が見える道路のカーブで井川さんは「ここの夕焼けが一番好き」と話した。

 島は、古代朝鮮・百済の第25代王、武寧王が生まれた地としても知られ、一行は「生誕の地」の石碑がある「オビヤ浦」も訪れた。

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加唐島の高台からは海がきれいに見える

 企画の目的は、単に島をめぐるだけではなく、石に絵を描く「ストーンアート」を参加者たちにつくってもらうこと。井川さんの呼びかけで、参加者はオビヤ浦で石を拾うと、島内の施設に持ち帰り、思い思いに絵の具で猫を描いた。

 30個ほどの力作が仕上がると、それぞれ、眺めの良い場所や海の近くなど島内のお気に入りの場所に置きに行った。

 井川さんが「ねこの島道」と名付けたこの企画。10月のイベントからストーンアートづくりを始め、今回で2回目。最終的には100個以上の「ストーンアート」を置き、観光客たちが石を探しながら、島をめぐって散策できるようにしたいという。

短時間の滞在「もったいない」

 企画を思い立った背景には、井川さんの島への思いがある。

 井川さんは福岡市出身だが、祖母や母が加唐島出身で、子どもの頃から時々家族で島に来ていた。転機となったのは、4歳下の弟が中学の時、島に「留学」したこと。

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海を望む高台でカフェを営む井川えりなさん

 2017年度に唐津市の離島で始まった離島留学の制度。体が弱かった弟は、島で過ごすとたくましくなり、泳げるようにもなったという。

 弟の留学に伴い、井川さんも、島に行く機会が増えた。すると、小さい時に見ていた島との変化も目についた。人や漁船は減り、空き家が増えた。大好きな島が寂しくなってきたのが悲しかった。

 海外で暮らしたいと考えて、準備を進めていたが、コロナ禍で断念せざるを得なくなり、「島を盛り上げよう」とカフェ開設を決意した。

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加唐島内に置かれた猫の絵のストーンアート

 母の実家をリフォームし、22年9月にカフェをオープン。島名産のツバキ油を使ったピザなどが人気で県内外からの客が訪れる。

 ただ、悩みは島での滞在時間。船の時間の都合で、多くの客は午前11時呼子発の便に乗り、午後1時加唐島発の便で帰る。1時の次の船は午後4時半。「加唐島には何もない」という声も聞くが、魅力あるスポットはいくつもあり、短時間で島から帰るのは「もったいない」と思っていた。母と二人で切り盛りする店も、短時間に対応が集中して大変でもある。

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加唐島内に置かれた猫の絵のストーンアート

 島の魅力を感じながら、時間を過ごせる方法として、ストーンアートの企画を考案した。

 こうした取り組みの根本には、島のことを知り、住んでみたい、子どもを島の学校に通わせたい、などと「島の生活にあこがれてもらいたい」という願いがある。人口減少など島の現状を嘆くより、「その先を見据えた何かを一歩ずつつくっていけたら」と話す。

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