適度のウォーキングによってアルツハイマー病の進行を遅らせられるかも FACEBORN/SHUTTERSTOCK
<1日1万歩は難しいけれど、その半分なら...そう思う人に朗報だ。無理のないペースで歩く習慣を持つだけで、アルツハイマー病の進行を数年単位で遅らせられる可能性があるという>
1日1万歩はきついけれど、その半分くらいなら私にも......と思っているあなたに朗報。無理せず適度に歩くことを習慣にすれば、アルツハイマー病の進行を何年か遅らせられる可能性があるという。
米ハーバード大学系列のマサチューセッツ総合病院の研究チームが学術誌ネイチャー・メディシンに11月3日付で発表した論文によれば、アルツハイマー病への関与が疑われるアミロイドβ(タンパク質の一種)の蓄積が始まっている高齢者でも、適度な散歩をしている人は、そうでない人に比べて認知機能の低下ペースが遅いという。
今回の研究では、まだ認知機機能障害の出ていない数百人の高齢者を最長14年にわたり追跡調査した。すると、毎日3000~5000歩ほど歩いている人は、そうでない人に比べて認知機能低下の進行が平均3年ほど遅く、1日5000~7500歩の人では7年ほど遅かった。
一方、あまり動かない人では、認知機能の低下を招くタンパク質タウの蓄積が著しく進み、認知機能や生活の質の低下も顕著だった。
「まず言えるのは、アミロイドβ蓄積量の差異では認知力低下との関連を説明できないということだ」と、論文の筆頭著者のワイイン・ウェンディ・ヤウ医師は言う。
「ただしアミロイドβ蓄積量が同じであれば、歩数が多い人ほど悪玉タウの蓄積が遅くなり、従って認知機能の低下ペースも遅くなる」
また論文の共著者のジャスミール・チャトワル医師は報道発表で、「アルツハイマー病の発症条件がそろっている人の中でも、認知機能低下の速度に違いがあるのはなぜか。どうやらこの病気の最初期では、ライフスタイルを変えることで症状の発現を遅らせることができるようだ。もちろん早めに変えることが大事だが」と述べている。
毎日の積み重ねが重要
今回の調査対象となったのは、まだ症状の出ていない50~90歳の296人。まず脳内のアミロイドβとタウの蓄積量をPETスキャンで測定し、その後はベルトに付けた歩数計で参加者の身体活動レベルを評価した。
その結果、1日に歩く歩数が多いほど、認知機能の低下速度が遅く、タウの蓄積も緩やかになることが分かった。ただしアミロイドβ蓄積レベルの低い人では、認知機能の低下と身体活動の有意な関連は認められなかった。
一方、「こうした観察研究だけでアルツハイマー病の進行と運動量に関係があると断定はできない」と指摘するのは、ロンドン大学クイーン・メアリー校の神経学者チャールズ・マーシャル教授だ(本研究には関与していない)。
それでも「できる範囲で定期的に運動することを推奨する」と言うのは、英アルツハイマー病協会で治療法の開発に取り組むリチャード・オークリー医師だ。
「健康的でバランスのいい食事を取る、喫煙を控える、飲酒量を減らす、糖尿病や高血圧などの健康状態を適切に管理するといった対策も、認知症の発症リスクを減らすのに役立つ」
「一歩ずつでいい」と、論文の筆頭著者のヤウも言う。「少しずつでも運動量を増やしていく。その積み重ねが健康的な生活習慣につながる」
Reference
Yau, W.-Y. W., Chhatwal, J. P., & colleagues. Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer's disease. Nature Medicine. (2025). DOI: 10.1038/s41591-025-03955-6
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