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<高齢期は失うものばかりではない。小さくても仕事を持てば、人とのつながり、役割、そして収入が得られる。人生100年時代を前向きに生きる知恵を紹介する>


人生後半は思いがけないことの連続。すぐに息が切れる、立ち上がるのもひと苦労、ころんで骨折......加齢現象という未知との遭遇は、前向きに老いを迎え撃つ大冒険の始まりです。

介護や認知症、老後のお金など、年とともに増えるさまざまな不安は、笑ってはねのけましょう。高齢社会の専門家・樋口恵子さんの著書『増補版 老いの福袋 あっぱれ! ころばぬ先の知恵88』から、一部抜粋・編集してお届けします。

高齢期の「4つの覚悟」

高齢期になると、4つのものを失う可能性があります。

まず「人」。配偶者などの家族がいなくなるかもしれないし、友人、知人もこの世から去っていく。家族や友人、知人が健康を損ね、会えなくなる可能性もあります。


次が「健康」。いまの高齢者は健康な人が多く、75歳まではたいして病気をしません。

でも、75を過ぎたあたりから、さまざまな病気にかかる人が増えます。認知症になる人の率も上がりますし、私みたいに足腰がヨタヘロ状態になる場合もあります。

3つめは「お金」。人はなかなか、ぽっくりとは死ねないものです。そのため高齢になると、なにかと医療費がかさむように。結果的に貯金が少しずつ減っていく可能性があります。

4つめは「家」。持ち家があるからなんとかなると思っていても、家の老朽化で住めなくなることもあります。人口減少社会で不動産の価値もどうなるか。あるいは家を手放し、老人施設などに入る選択をする場合もあるでしょう。

失うものばかり考えていると、気が滅入ってくる方もいるかもしれません。でも、大丈夫。失ったものを補う方法は、いろいろあります。


まずは「そうか、こういうことが起きるんだ」と心の準備をしておくこと。覚悟をしておけば、いざというときパニックにならないですみます。

貧乏ばあさん防止作戦(BBB)

職場でがんばって働いてきた女性たちも、男性に比べて低賃金だったり、非正規雇用だったりで十分な収入がない、あるいは子育てや介護で就労年数が少ないなど、十分な年金を得られない人が多いのが現実です。

なぜなら、働く女性には職場からすべり落ちる「3つのすべり台」があり、たとえ正規雇用で仕事をスタートさせたとしても、離職せざるをえないケースが多いからです。

第1のすべり台は、妊娠・出産。働いている女性のなかには、ここでやめてしまう人が少なくありません(現在は育児休業制度がありますから、変わってくるでしょう。やめないでください)。

第2のすべり台は、夫の転勤・転職、離婚など。最近は夫のリストラで、夫のほうがすべり台から落ちてしまうケースもあります。

第3のすべり台は家族の介護。介護を理由に離職する人のうち圧倒的多数はいまも女性です(男性も増えていますが)。

このように、女性ならではのすべり台が生涯に少なくとも3回はあります。本来、このすべり台をすべり降りる前に、あるいは落ちてももとのコースに戻れるよう、政策でもって女性に笠をかぶせてあげる必要があります。名付けて「女性の三度笠」。

第1のすべり台に関しては、男性の育児休業、パパの産休などだいぶ制度化が進んできました。ですから、これから子どもを産み育てる世代は、政策と夫の双方から笠をかぶせてもらえるでしょう。

第3のすべり台に関しても、まだ十分とは言えませんが、介護休業制度などが充実しつつあり、介護離職ゼロ作戦は政府の経済政策に含められました。

問題は、すでに高齢期、もしくはこれから高齢期を迎える世代の女性たちです。

いま、高齢期を迎える女性の多くは、自分自身の稼働能力を発揮できずに年を重ねていった方たちです。女性を「嫁」として家庭に縛りつけ、家事と舅姑の介護を担わせた結果、「BB(ビービー)」が大発生。

ある程度の年齢の方なら、BBと聞くと女優のブリジット・バルドーのことだと思われるかもしれませんが、ここでいうBBとは、「貧乏ばあさん」のこと。


「貧乏」も「ばあさん」もちょっと乱暴な言葉ですが、現実を知っていただくために、あえてこの言葉を使っています。

生き残っている私の同年輩を見ると、いちばん経済的に安定しているのは、男女平等な職場で定年まで共働きした夫婦。年をとって配偶者に裏切られることはあっても、年金は裏切りません。

ですが、私の世代の多くの女性は男性より年金の額が少ない。多少なりとも貯金があれば、足りない分は貯金を切り崩すという方法もあるでしょう。でもそうなると、今度は老後資金が心配です。

さぁ、大変! このままではBBになってしまう可能性があります。

ずっと働いてきてもBB。主婦として家族を支えてきてもBB。これでは、日本の女性は浮かばれません。なんとかニッポンからBBをなくせないものか。目下、私の一番のテーマは「貧乏ばあさん防止作戦(BBB)」です。

仕事で得られる3つのもの

遺族厚生年金の人は、世帯収入が減った分どうすればいいのか。あるいはずっと働いてきたのに安月給=安年金で年金が少ない女性は、どうしたらBB(貧乏ばあさん)にならないですむか。

BBB(貧乏ばあさん防止作戦)への道を模索し、なんとか制度化できないものかと頭を悩ませていますが、制度の変化には国民的合意ができても時間がかかります。

となれば、まずは1人ひとりができるBBBをいますぐ始めたほうがいいと思います。

「貧乏ばあさん防止作戦」の第一歩は、働くばあさん(HB)になることです。家事が得意な人は、家事力を生かして、シルバー人材センターなどに登録し、個人宅の家事を行うことも可能でしょう。

一念発起して、介護ヘルパーの資格を取れば仕事も見つけやすい。最近は高齢者雇用に取り組む企業も増えてきているので、情報を集めてみましょう。

どんなささやかな仕事であっても、仕事をすることで3つのものが得られます。


1 人と接する機会が生まれる

2 人の役に立つ。そのために能力向上できる

3 現金収入が得られる

それぞれ別々になら、得られる場はたくさんあります。でも、3ついっぺんに得られるのは、仕事のみです。

月にわずかでもいいから、働いて収入を得る方法を探しませんか?

最初は数時間のパートでもいいのです。そこからさまざまな出会いがあり、新たな道が開けるかもしれません。

「犬も歩けば棒にあたる」ではないけれど、動かなかったら何にもあたりません。恐る恐るでもかまわないので、まずは行動を起こして、とにかく収入の道を開いてください。そうすればBBを脱却し、働くばあさん=ハッピーなばあさん(HB)への道が開けるはず。

命は長し、働け女たち

座して待っていては、仕事はやってきません。昔「命短し、恋せよ乙女」という歌がありましたが、いまや「命は長し、働けばあさん」です。さぁ、女性たちよ。BBBの狼煙(のろし)をあげ、みんなで働くハッピーばあさんになろうではありませんか。

そしていま40代、50代の方にお願いです。

もし子育てなどでいったん職を離れたとしても、どうか早いうちに仕事に戻ってください。人生100年時代、まだまだ人生は半分以上残っているのです。

40代、50代といえば、いまの時代、十分若いです。人生50年時代に生まれた私から見たら、当時の20代、30代と比べても遜色ありません。ですから、いまならまだどんなことにもチャレンジできるはず。

人生、いつなにが起きるかわかりません。配偶者の仕事もどうなるかわからないし、老後の生活を子どもの経済力に頼ることも難しいでしょう。

だから自分で自分自身の老後のために保険を掛けておくべきです。この際、88歳のばあさんから皆さんにハッパをかけたい。命は長し、働け女たち!

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※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら。

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