兵庫県・淡路島の北の明石海峡や南の鳴門海峡のマダイには、まれに奇妙な骨の変形がみられる。体の中心を貫く背骨から太い中骨が上下に伸び、この中骨の一部がコブのように膨らんだ個体がいる。
コブは「鳴門骨」と呼ばれる。ネット検索すると「鳴門海峡の激流にさからって泳ぐため疲労骨折し、再生と骨折を繰り返してできる」「たくましく身の締まったブランド真鯛の象徴」「鳴門骨がある個体は極上」みたいな説明が多数ある。
私が初めて鳴門骨を見たのは5年前。明石海峡で釣った1匹から出た。以来、明石や鳴門の個体でよく見かける。出現頻度は、私の経験では100匹釣って4、5枚(5%前後)。めでたい感じもするので、洗って干して宝物にしている。
コブの正体、実はよく分かっていない。夢を壊すようで恐縮だが「疲労骨折」は都市伝説のたぐいだ。なぜならコブは全国各地で見つかり、運動が足りていないはずの養殖個体からも出てくるのだ。
鳴門骨が激流と無関係だとしても、鳴門海峡のマダイがおいしいという事実はテッパンだ。私は以前、東京湾や千葉外房(太平洋)でさんざん釣ってきたが、鳴門鯛にはかなわない。
鳴門鯛は海峡一帯の定置網で取れるが、存在感は希薄で、東日本では見かけない。店頭に並ぶのは同じ四国の愛媛県産養殖マダイだ。魚の流通に詳しい徳島魚市場青物課の清重雅和主任(38)は「鳴門鯛は天然モノ。養殖モノは流通量が桁違いに多い」と話す。
調べると、鳴門鯛を獲るのは徳島県鳴門市の▽北灘▽堂浦(どうのうら)▽鳴門町――の3漁協で、昨年1年間の漁獲量は計約120トンほど。流通先は関西一円どまりという。
一方、愛媛県産養殖マダイの生産量は2023年約3万8000トンで、その9割近くが宇和島市と愛南町に集中。全国の養殖マダイ生産量は6万8000トン前後で、半分強が愛媛県産だ。なお全国の天然マダイ漁獲量は年間約1万6000トン。
養殖マダイは脂がよくのる。釣った天然鯛をよく食べる私は養殖の脂を少しきついと感じる。とはいえ、産卵直後の痩せた天然鯛よりおいしい。ちなみに、私は天然マダイの旬を乗っ込み(産卵に備えた荒食い)直前の1、2月と考えるが、清重主任は「天然モノは時期によらず太った個体も痩せた個体もおり、ばらつきが大きい」と話す。確かに天然鯛には当たり外れがあり、均質な養殖モノとは対照的だ。【井上英介】
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