クレイトンベイホテルの和食店「呉濤」で料理長を務める鷹林勲さん=呉市で2026年3月6日午前11時37分、井村陸撮影

鷹林勲(たかばやし・いさお)さん

 ニット帽をかぶった中年の男性が同僚の女性と店ののれんをくぐり、店内のカウンター席に座った。生ビールをぐいっと飲むと、手作りのおばんざい、おでんなどを次々と注文していく。食べ進めるほどに表情は柔らかくなり、「これはだしをきかしとるけえ」と言ってエノキのおでんを一気に口に運ぶと、「ぶちうまい」とかみしめるように語った。

 2年前から広島県呉市内の飲食店を訪ね、グルメを紹介する動画をSNSで発信している。鋭い目つきとスキンヘッドの容貌もあって愛称は「コワモテ料理長」。動画の再生回数は100万回を超えることもある人気のコーナーだ。

 広島市安芸区に生まれた。高校時代、アルバイト先のすし屋の職人が真剣に仕事に向き合う姿に心を動かされ、将来は料理人になると決めた。大阪の専門学校を経て、卒業後は日本料理の道に進んだ。

 最初に働いた広島市内のホテルは、自身にとってつらい思い出だ。煮物などの味付けをする「煮方」をメインで担当したが、「味がだめだ」と怒られ何度もやり直す日々。「自分には無理だ」と思った時もあったが、歯を食いしばって腕を磨いた。

 2005年、呉市のクレイトンベイホテルで働き始め、2年後からはホテル内の和食店「呉濤(ごとう)」の料理長を務めた。

 料理人として順調にキャリアを重ねている中で、20年からの新型コロナウイルスの大流行に見舞われた。ホテルは営業の自粛や短縮を強いられたが、同じように大打撃を受けていた市内の飲食店が気がかりだった。

広島名産のカキを紹介する鷹林勲さん(右)=呉市でクレイトンベイホテル提供

 そこで、ホテルの同僚、青野孝史さん(49)と話し合い、少しでも飲食店の助けになればと、24年から自ら飲食店を訪れてSNSで食レポの配信を始めた。

 もともと口数は少なく、人前で話すことは苦手だ。カメラの前で話した経験もない。おいしいと思っても、気の利いた言葉はすぐに出てこない。当初はとまどうことが多かったが、普段通りの自分で、店の人や客との会話を楽しみながら食レポすることを心がけた。

 動画は、インスタグラム、ティックトックなどで配信する1分程度の短編と、ユーチューブなどで配信する30分程度の長編がある。収録は、仕事の合間を見つけて10日に1回ほど。撮影と編集は青野さんが担い、ホテルの従業員も入れ替わりで出演している。撮影時は店の人との会話も大切にしていて、動画からは料理のおいしさと店内の温かい雰囲気が伝わってくる。

 呉市内を歩いていると、動画を見た人から声をかけられることが多く、写真撮影をお願いされることもしばしば。「紹介していたお店に行きました」と言ってもらえると、配信を始めてよかったと思う。

 海外の人にも目を向けてもらうため英語での撮影を始めており、料理の食べ方なども細かく紹介している。「誰が見てもわかりやすく楽しめるような動画を発信して、呉の食のおいしさを多くの人たちに感じてもらいたい」【井村陸】

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