医療搬送用のヘリコプターが長崎県・壱岐島沖で転覆した状態で見つかり、患者ら3人が死亡した事故から6日で1年となった。事故後、民間病院のヘリは休止し、県のドクターヘリも整備士不足で使用できない期間が長く続いた。患者が暮らしていた長崎県対馬市から九州本土への搬送には防災ヘリの出動が急増したが、ドクターヘリに比べ搬送に時間を要する。住民も医療関係者も安心できる運航体制をどう構築するか、模索が続く。
事故は2025年4月6日に起きた。午後1時半ごろ、福岡和白病院(福岡市東区)の医療搬送用ヘリが、脳出血を発症した対馬市在住の本石ミツ子さん(当時86歳)と付き添いの息子、和吉さん(同68歳)らを乗せ、対馬空港(長崎県)を離陸した。その約17分後、通信が途絶えた。ヘリが見つかったのは午後5時過ぎ、壱岐沖で転覆した状態だった。搭乗の6人のうち本石さんと和吉さん、医師の3人が死亡した。
対馬市は長崎県の自治体ながら、生活圏としてはフェリーなどで結ばれる福岡と関係性が深い。和白病院では08年に民間として医療搬送用ヘリを独自に導入し、対馬や壱岐から患者を搬送。国と都道府県の負担で運営するドクターヘリが主に重症患者に対応するのに比べると柔軟な運用ができ、23年度は長崎県対馬病院からのヘリ搬送のうち約半数の23件を担った。
事故後、和白病院はヘリを無期限休止に。国の運輸安全委員会による事故原因の調査や唐津海上保安部による捜査が現在も続く。
こうした中、25年度に長崎県のドクターヘリは運航会社の整備士不足などで計133日間止まった。長崎県は佐賀県とドクターヘリの相互運用の協定を結んでいるが、佐賀県のヘリはフロート(浮き具)を備えていないため、本土寄りの一部の島を除いて離島に向かえない。
このため、対馬病院からの搬送は長崎県の防災ヘリに頼った。病院によると、23年度は4件だったが、25年度は15件で約4倍となった。
同じ搬送とはいえ、防災ヘリは要請から搬送までの所要時間に違いがある。長崎県によると、防災ヘリは長崎空港(同県大村市)近くに駐機し、搬送要請があると長崎医療センター(同)から医師らを向かわせ、医療用の装備を積み込んで現地に向かう。
対馬病院によると、ヘリ搬送を要請してから同病院を患者が出るまでの平均所要時間(15~25年の実績から算出)はドクターヘリや和白病院の医療搬送用ヘリが約50分であるのに対し、防災ヘリは1時間37分で倍近くかかる。ドクターヘリも防災ヘリも使えない場合は自衛隊ヘリに依頼するが、県知事による災害派遣要請の扱いとなり手続きに段階を踏むため、平均所要時間は2時間10分とさらに延びる。
長崎県は26年度の早期に2機目のドクターヘリの運航を開始予定だ。県によると、運航会社が他県でのドクターヘリ事業の受託を絞り、長崎での運航体制が確保されたとしている。ただ、整備士の休退職や採用状況によって再び運航に影響が出ることも懸念される。
事故で姉とおいを亡くした対馬市の永尾一心さん(80)は「病人にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際で、ヘリに1分でも早く来てもらえるのがいい」と肉親を失った中でもヘリ搬送の重みを語る。
対馬病院の八坂貴宏院長(63)は「転落事故のような大量出血を伴う患者が生じれば1分、2分を争い、早いに越したことはない」と語り、「ドクターヘリを例えば北部九州の複数県で広域運航できるような仕組みも考えるべきだ」と訴えた。【宗岡敬介】
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