クマ=北海道斜里町で2022年4月、貝塚太一撮影
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 全国でクマによる被害が相次いでいる。人の生活圏に出没するクマが増加し、農作物を食い荒らすだけでなく、人がクマに襲われてけがをしたり、死亡したりする事故も起きている。クマへの対応をどうすべきか。毎日新聞が8月に実施した全国世論調査では「駆除を中心に対応すべきだ」が63%で、「駆除以外の方法を考えるべきだ」(20%)を大きく上回った。だが、選んだ理由を自由に書いてもらうと、どちらも単純には割り切れない悩みがにじみ出ていた。

北海道と東北で顕著

 調査は、スマートフォンを対象とした調査方式「dサーベイ」で実施した。NTTドコモのdポイントクラブ会員を対象としたアンケートサービスを使用し、全国の18歳以上約7400万人から調査対象者を無作為に抽出。2046人から有効回答を得た。

クマ被害について
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 年代別でみると、「駆除を中心に対応すべきだ」の回答者は全年代で60%台。年代による差はみられなかったが、男女別では、男性は71%で女性(58%)を13ポイント上回った。また、衆院選比例代表のブロックに合わせた地域別では、二つを除く9ブロックで「駆除を中心に対応すべきだ」が50%台半ばから60%台半ばだったのに対し、北海道と東北の両ブロックでは70%を超えた。東北はクマの被害が多いとされ、北海道では今年、新聞配達中の男性や登山客がヒグマに襲われて死亡する事故が発生している。

人命優先と自然保護

 「駆除を中心に対応すべきだ」を選んだ理由には「人間を襲い人間の尊い命を奪うのであればクマは駆除一択しかない」(40代男性)、「人里に近づいたクマは容赦なく駆除すべきだ」(70代男性)など積極的な駆除を求める意見が多数あった。クマの危険性を鑑みての意見とみられ、「人命を最優先に考えるのが当たり前」(20代男性)、「自分の親や子が襲われると考えると人ごととは思えない」(70代女性)などの指摘も相次いだ。このほか、「クマの怖さを知らない人がごちゃごちゃ文句を言っている」(70代女性)、「動物愛護等は安全圏にいる勝手な言い分」(30代女性)、「害獣保護を優先し人命に被害が出ては元も子もない」(20代男性)など駆除への反対意見を批判するものもあった。

 しかし、より目立ったのは「やむを得ない」「仕方がない」などの消極的な理由だ。「人を襲うクマは駆除もやむを得ない」(60代女性)、「駆除は本意ではないが現状では仕方がない」(70代男性)、「野生動物の保護も大事だが、人的被害が加速する現状では、駆除もやむを得ないと思う」(80歳以上女性)などの意見が続き、「クマにはかわいそうだが、人命第一」(60代男性)、「クマもかわいそうだが、人の命にはかなわない」(70代女性)といったクマに同情を寄せたものもあった。

ツキノワグマの親子=環境省提供
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 クマの生息地が人間による自然環境の破壊や地球温暖化によって少なくなっているという考えがあるのだろう。「山の生態系が崩れているからクマが来ると思うので、その原因の改善に努めることの方が優先とは思う」(40代女性)、「今の状況を作ったのは人間だから人間の活動を根本的に見直す必要はある」(40代男性)などの書き込みからは、駆除と自然保護の間で悩み、折り合いをつけたいとの思いがうかがえる。

共生の訴え

 「駆除以外の方法を考えるべきだ」の理由の自由記述では、それが一層はっきりする。「人間が勝手に動物の生活圏内に入り込み、自然破壊しているわけで、共生できる環境を考えるべきだ」(60代女性)、「もとはと言えば、人が自然破壊をしたからこうなっているので、クマと共存できる方法を探るべきだ」(20代女性)など共存を目指していくべきだという訴えが相次いだ。また、「里山を大切に管理し、動物たちと区別して生活ができる社会を望みます」(70代男性)、「里山の管理など共生の環境を整え、互いに侵害しあわない努力が必要」(40代女性)といった生活圏を明確に分ける努力をすべきだという意見や、「駆除には限界がある。もっと根本的に共存するすべを考えるべきではないか」(50代女性)、「クマが市街地に来るようになった理由を考え対応しないと、ただ駆除しただけだと解決にならない」(60代女性)など駆除以上の対応を求める意見もあった。

ヒグマの市街地への侵入を防ぐ電気柵の設置作業=北海道福島町で2025年7月18日午後3時18分、三沢邦彦撮影
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 実は、「駆除以外の方法を考えるべきだ」の中には駆除に賛同する声も多い。「短期的には駆除は致し方ない」(20代女性)、「駆除もしつつ、市街地に来ない対策を考えればよい」(40代女性)など駆除の必要性を言及しているものも多い。「駆除は最後の最後の手段」(60代男性)、「ある程度駆除も必要ですが、クマの生活圏を保護すべきだ」(70代女性)、「駆除は人を襲ったクマに限るべきだ」(70代男性)――安全確保の手段として駆除は避けられないが、なるべく抑えたいとする思いがにじむ。

 調査では「わからない」という回答も16%あった。理由には「駆除は人間中心の考え方だが、駆除以外の効果的共存方法が具体的には分からない」(60代女性)、「農作物を食い荒らしたり人を襲ったりするクマは駆除するしかないが、できれば共存したい」(70代女性)などが書かれていた。野生動物との共生は? 安全確保と自然保護の両立は?――クマへの対応は人の命にかかわる問題であり、早急な対応が求められる一方で、根本的な解決への模索が続く。【野原大輔】

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