
ライニンガーは悪路も悪天候もものともせず、超長距離を走り続けて新記録を打ち立ててきた HUNTER LEININGER
<大自然のなかケガや痛みに耐えながら、1000キロ超を走る超長距離ランニングの醍醐味>
▼目次
1.両親の趣味をまねて
2.カギはマインドセット
3.美しい風景に支えられて
楽しみのために走る行為は、国や人種や世代を超えて多くの人に愛されている。公園を駆け回る子供たちしかり、趣味と健康を兼ねてジョギングをする人しかり。
ハンター・ライニンガー(24)も走るのが大好きだ。ただし、彼の言う「走る」は、近所をジョギングするレベルではなく、フルマラソンすら生易しく感じられるレベルだ。なにしろ、アメリカの州を数日かけて横断する超長距離ランニングなのだから。
しかも、基本的に舗装した道路を走るマラソンとは異なり、ライニンガーがやっているのは森の中から丘陵地までさまざまな地形を疾走するトレイルランだ。最近走破したコロラド州横断では、1200キロを走った。全ルートの標高差は延べ9万メートルを超える。
「フロリダを縦断して、アイスランド横断もした。あんなに爽快な気持ちは久しぶりだった。それで次はコロラド州に挑戦しようと思ったんだ」
もちろん、大好きという気持ちだけでは、超長距離トレイルランニングはできない。コロラド州はロッキー山脈があるし、夏は荒天に見舞われる日もある。その広大な面積を考えると、1日2回のフルマラソンを2週間も続けるようなものだ。
だが、ライニンガーは、そんな過酷な条件を走り切っただけでなく、そのタイムが「確認できる最も速いタイム(FKT)」に認定されることを願っている。
「全部で18日かかったけれど、従来のFKTを1週間以上縮めることができた」と、彼は言う。「でも、今までで一番クレイジーな冒険だった。これまでに味わったことのない最高の気分も、最悪の気分も味わった」
野球には子供を対象とするリトルリーグがあるが、極限の耐久レースには子供向けのレースはない。だが、ライニンガーはかなり小さい頃からその魅力に取りつかれた。
「きっかけは17年前だと思う。父がアドベンチャーレースをやっていたんだ」と振り返る。「アドベンチャーレースとは、いわばオフロード版トライアスロンで、地図とコンパスだけを頼りにオフロードで長距離走と自転車、そしてカヌーをやるものだ」
「父はそれを何年もやっていた。小さい頃からその姿を見ていて、応援していた。6歳くらいのとき、思い切って『僕も出られるかな』と父に聞くと、『とんでもない。このスポーツは絶対子供にやらせるべきじゃない。危険すぎる』と言われてしまった」
2. 両親の趣味をまねて
だが、子供はしつこいものだ。「1年くらい頼み続けたら、父が根負けして『それなら1度やらせてやる。でも、もう2度とやりたいと言わせないためだからな』と言って出場させてくれた。ただ、実際に出場するためには、ルールに抜け穴をいろいろ見つけなくてはいけなかった。子供向けの保険を見つけるとかね。でも、とにかく7歳のときに父と一緒にレースに出た」
こうして限界にチャレンジする楽しさを知ったライニンガーは、今度は、母親がやっているスポーツにも挑戦したくなった。
「母はウルトラランナーで、100マイル(160キロ)レースをやっていた。それを見て『僕もできそうだ。楽しそうだな』と思った。それで勢いで申し込んだ。でも人生で最悪の経験の1つだったね」と、ライニンガーは笑う。
「ものすごくきつかった。レース中ずっと脚が痛くて、痛くて、泣きながら走った。とにかく痛かった。でも、『自分でもどうしてこんなことをしているのか分からないけど、とにかく切り抜ける方法を学ばなきゃ』と思った。それがハマるきっかけになった」
どんなスポーツも、身体的な準備と、メンタル面での準備が不可欠だ。だが、州を横断するような長距離を走る場合、どんな準備をすればいいのか。もちろん、事前に同じコースを走っておくわけにはいかない。
「(1200キロを走るための)トレーニングなんて、ほぼ不可能だと思う」と、ライニンガーは言う。「そんなに長距離を走ったら、本番前にケガをしてしまう」
「このレベルの長距離ランでは、最初の数日が次の数日の訓練になり、それがまた次の数日の基礎になるという考え方がカギになると思う。だから、実際に訓練したのは(数日分の距離である)240キロを走ることだった」
3. カギはマインドセット
具体的な考え方はこうだ。「1日平均80キロ走るとして、3日間を走り切れば、それが次の3日間の準備になる」。このパターンを構築できれば、あとは、どこをどう走るかという戦略に集中できる。
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【note限定公開記事】走りながら、折れない心を鍛える...1200キロを走り切った男のマインドセット
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