ILLUSTRATION BY N UNIVERSE/SHUTTERSTOCK

<米メイヨー・クリニックの研究チームは、不眠が脳の白質やβアミロイドの蓄積に及ぼす影響を長期追跡し、「睡眠は単なる休息ではなく、脳の回復力に関わる生命活動である」と警鐘を鳴らす>

慢性的な不眠症の高齢者は、軽度認知機能障害や認知症の発症リスクが40%高くなると警告する研究論文が学術誌ニューロロジーに掲載された。

「不眠症は翌日の気分に影響するだけではない」と、論文を執筆したメイヨー・クリニック(米ミネソタ州)のディエゴ・カルバリョは指摘する。


「私たちは思考能力の低下と脳の変化が早まることを確認した。慢性的な不眠は将来の認知障害の早期の兆候、または原因の1つかもしれない」

英ノーサンブリア大学の睡眠研究者ジェイソン・エリス教授(この研究には関与していない)は、「睡眠中に脳から毒素、特に認知機能低下や神経変性疾患に関連するタンパク質βアミロイドを除去していることは確認されている」と本誌に語った。

「従って、長期にわたる徐波睡眠(深い睡眠)の不足は、認知機能低下のリスクを高める可能性が確かにある」

研究チームは認知機能に問題のない成人2750人(平均年齢70歳)を約5年半にわたり追跡調査。被験者は調査開始時に直近の睡眠パターンを報告し、年に1度の記憶・思考テストを受けた。

そのうち慢性的な不眠を訴えた被験者は全体の16%。研究者は脳小血管病(小血管性認知症)に関連する脳組織の損傷領域である大脳白質病変と、アルツハイマー病に関連するβアミロイドの沈着物である老人斑を調査した。

研究の結果、睡眠パターンによる明確な差異が明らかになった。過去2週間の睡眠時間が通常より短かった被験者は、認知テストのスコアが低下。大脳白質病変と老人斑の増加が認められた。通常より睡眠時間が長かった被験者は、調査開始時点より大脳白質病変が減少していた。

睡眠が脳の健康に欠かせないことを示す証拠は増え続けている。カルバリョが指摘するように、「睡眠は単なる休息ではなく、脳の回復力に関係する」ものなのだ。


Reference

Carvalho, D. Z., Kolla, B. P., McCarter, S. J., St. Louis, E. K., Machulda, M. M., Przybelski, S. A., Fought, A. J., Lowe, V. J., Somers, V. K., Boeve, B. F., Petersen, R. C., Jack, C. R., Graff-Radford, J., Varga, A. W., & Vemuri, P. (2025). Associations of Chronic Insomnia, Longitudinal Cognitive Outcomes, Amyloid-PET, and White Matter Changes in Cognitively Normal Older Adults. Neurology, 105(7). DOI: 10.1212/WNL.0000000000214155

【動画】新たな研究報告が不眠症と認知症リスクの関連性を示す


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。