松阪駅(三重県松阪市)と伊勢奥津(おきつ)駅(津市美杉町)を結ぶJR名松線は12月5日に全線開業から90周年を迎える。人気の駅弁を包む記念の掛け紙には、車両とともに開業時から沿線住民に親しまれた給水塔が納まる写真が使用された。
創業130周年の老舗駅弁製造販売業、新竹商店(松阪市)は12月1日から、看板商品「元祖特撰牛肉弁当」(税込み1800円)をJR名松線開業90周年を記念した掛け紙にして販売する。鉄道写真家の櫻井寛さんが2017年7月に撮影した旧国鉄伊勢奥津駅給水塔と停車する車両の写真を使用し、新竹浩子社長は「名松線にSL(蒸気機関車)が走っていた証しとして誇らしい」と話している。
名松線は1929年に松阪駅から権現前駅までの約7キロで開業した。延伸しながら、35年には伊勢奥津駅まで総延長43・5キロの全線が開通し、地域住民の移動手段だけでなく、沿線の景色を眺めながらの列車旅が楽しめる路線となった。
掛け紙になった旧国鉄伊勢奥津駅給水塔は高さ約9・5メートル、鉄筋コンクリート製の4本の柱の上に鉄製の貯水槽が乗り、旧国鉄時代に運行していたSLに給水するために使われた。65年にディーゼル機関車へ移行すると、各地にあった給水塔は姿を消していったが、伊勢奥津駅の給水塔は旧美杉村の住民を中心に地域のランドマークとして親しまれ、大切にされてきた。
2021年には往時の景観を残す給水塔を保存、活用しようと市に文化財登録の要望書を提出した。22年の文化庁による調査では「鉄道史上、価値が高く重要な工作物であり、国土の歴史的景観に寄与する」と評価され、24年12月3日に国登録有形文化財に登録された。現存する給水塔は、鳥取県の若桜(わかさ)鉄道・若桜駅の給水塔と合わせて2基とされている。
市は昨年の登録を受け、維持保全のために給水塔の修復工事を実施した。鉄製貯水タンクの塗り直しやコンクリートの欠損部分などを補修した。修復した姿は、12月7日に伊勢奥津駅周辺である名松線全線開業90周年イベントで披露される予定。【下村恵美】
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