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<けがや病気で激しい運動ができない人のために、「力を抜いて動く」ことを重視した簡単な体操をパーソナルトレーナーの鈴木亮司さんが紹介>

健康な体づくりのために運動したいと思っても、けがや病気を患っているときに激しい運動はできません。「力を抜いて動くこと」の大切さに着目し、のべ4万人以上にパーソナル指導を行ってきた鈴木亮司さんに、楽にできてぐんぐん歩けるようになる体操を、ジャーナリストの笹井恵里子さんが聞きました。

この体操で80歳の人が「1日3万歩」歩けるようになったといいます。(パーソナルトレーナー 鈴木亮司/ジャーナリスト 笹井恵里子)

けがや病気を患っているときに筋トレは体に負荷がかかりすぎる

あなたは筋肉トレーニング(筋トレ)をしているでしょうか。

筋肉が増えることが目で見てわかる筋トレは、達成感がありますよね。もちろんそのようなトレーニングも無駄ではありません。しかし筋トレを続けることで注意してほしい点が3つあります。


一つ目は、一般の人が筋トレのような力む運動ばかりしていれば、体を動かすときに力むクセがつきやすくなること。前回、前々回の繰り返しになりますが、脱力によって凝り固まった筋肉を柔らかくすることが、健康な体や引き締まった体形への近道です。またトレーニングを続けるほど、部分的に筋肉が付いたとしても体全体としては痩せにくくなります。

一部に硬い筋肉を付けると体のバランスが崩れ、かえって全身の動きが悪くなりかねないことにも留意してください。

注意する二つ目は、筋トレは体力、パワーを付けるもの。「体の動かし方」ではないということです。運転に例えると、ひたすら車のエンジンパワーを上げるより、ドライブテクニックも磨いたほうがいい運転ができますよね。年とともにパワー(体力)を増強するだけではベストな状態がすぐ終わってしまいます。

ですから負担の少ない体の使い方を学び、長く活躍できる状態をキープしたほうがいい。ちなみにトップアスリートは、体力と体を動かす技術の両方を兼ね備えています。

そして三つ目は、けがや病気を患っているときに筋トレでは体に負荷がかかりすぎるということです。例えばバーベルを上げるトレーニングは、元気な人にしかできませんよね。私自身も眼窩底骨折(眼球周囲の骨折)を発症した際に医師から「力んではダメ」と言われ、力を入れる筋トレができませんでした。

不調を抱えた人もラクにできる体操で80歳の人が「1日3万歩」歩けるように

一般の方も、関節が痛い人や、血圧が高くて治療を受けている人は力を入れるトレーニングを避けなければなりません。体が不調に陥ったときは力を入れる筋トレはできないのです。

それではけがや病気があったり、リハビリ段階にある人は、体を鍛える方法がないのでしょうか。それはあまりにも酷な話ですね。

そこで私は誰でも簡単にラクに取り組める数々の体操を考案してきました。膝や腰の痛みなどの不調を抱えた人に勧めると、皆さんから「体がラクになる」と言われます。

そのうちの一つ、ぐんぐん歩けるようになる体操を今回紹介しましょう。この体操をしたら「1日3万歩を3日連続で歩けた」と報告してくれた、80歳の方もいます。

「膝腰同側」の体操で深層部の筋肉が鍛えられる

「膝腰同側」(ひざこしどうそく)といい、椅子に座って片側ずつお尻を持ち上げながら、左右に体重移動をするものです。

▼画像で解説・「膝腰同側」の体操

【「膝腰同側」の体操】 なるべく頭は動かさず、骨盤より下だけを左右に動かす 撮影=今井一詞

【「膝腰同側」の体操】 なるべく頭は動かさず、骨盤より下だけを左右に動かす 撮影=今井一詞

▼画像で解説・NG例

【NG例】 体全体が傾いてしまうのはNG 撮影=今井一詞

このときなるべく頭は動かさず、骨盤より下だけを動かすイメージでいることが大切です。すると、体を支える深層部の筋肉「インナーマッスル」のトレーニングになるのです。

これがきれいにできる人は、歩き方もうまいでしょう。最初はうまくできなくても、この動きを1日1回30秒でも続ければ、やがて股関節が柔らかくなり、インナーマッスルが機能して、高齢者であっても長く歩けるようになっていきます。
 
運動能力も確実に向上します。実際に私はプロのアスリートに指導する際もこれを取り入れています。実はプロでも体力だけに頼っている人は、こういったインナーマッスルを使う動きが最初はできません。

ところがそのような選手も、しばらく続けると効果が出ます。最近指導した選手の中では3カ月程度続けて自己ベストを更新したマラソン選手や、1キロが40秒早く走れるようになったスカッシュの選手がいるんですよ。

正しい歩き方は骨盤と足をつないで動かす

さて体に負担が少ない、正しい歩き方とはどのような姿勢でしょうか。

よくいわれるような「胸を張って前を見て、大股で腕を振り、かかとから着地する」ような歩き方はお勧めできません。大股で歩くと、体がくの字になって上半身と下半身が分断され、足だけで歩くような形になりがちなのです。長時間歩くと足が疲れやすい人は、このように足だけに負担がかかっている可能性が高いのです。


正しい歩き方は骨盤と足をつないで動かす、みぞおちから足を動かすようなイメージです。足を前に踏み出す瞬間、膝の上に腰が乗るように意識し、かかと、膝、腰がまっすぐ一直線になる形ですね。

【正しい歩き方】 骨盤と足をつないで動かす、みぞおちから足を動かすようなイメージで歩こう 撮影=今井一詞

腰から前に出て歩くことで大腰筋が強くなりウエストも締まる

感覚をつかむためには、右手と右足、左足と左手が一緒に出る「同側歩き」をしてみてもいいでしょう。足を上げずに腰から前に出ることで進むのです。こうすると骨盤がしっかり動き、背骨にねじりの動きも加わって、上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉「大腰筋」が強くなります。

大腰筋は足を動かす大本のエンジンです。体を使わないでいると大腰筋が衰え、歩くのが遅くなったり、姿勢が悪くなる、バランス力が低下したりするなどの症状が現れます。

反対に大腰筋を使い、腰から歩くような骨盤や股関節を動かす歩き方を身に付ければ、どこまでも歩けるようになるのです。腰を使うことによってつまずきの予防になり、階段も上りやすくなるでしょう。

すると足の負担が減り、おなかも使いますから、足やおなかなどの余分なぜい肉もそぎ落とされていきます。ウエストが引き締まってお尻が上がり、足が細くなるという、うれしいおまけも付いてくるのです。

女性は反り腰になりがちで大腰筋がほとんど動かない歩き方に

年齢とともに下腹部が出る要因は、単に太って脂肪が付くからではありません。特に女性の場合、下腹部が出てくる大きな要因は骨盤が後ろに傾くことにあります。

女性は関節が柔らかいため反り腰になりやすく、立っているときに体重がつま先側に乗りやすい姿勢になるのです。すると大腰筋がほとんど動かない歩き方になります。大腰筋は骨盤を引き上げて立たせる役目がありますから、動かさずに弱って硬くなってしまうと、骨盤が後ろに傾き、猫背で下腹が出た姿勢になってしまうということです。


さらに腹筋を鍛えすぎておなかが硬くなってしまうことでも、足がみぞおちから動かしづらくなり、運動能力がむしろ低下してしまいます。筋トレはインナーマッスルを動かさないトレーニングが多いために、動作としては非効率になってしまうのです。

わかりやすく言うと筋トレの動かし方のままで走ってしまうと、いいタイムが出なさそうでしょう? インナーマッスル、いわゆる体幹はカチッと固めるようなイメージではなく、チーターが走るときのような柔軟性が必要なのです。

本来、体は手や足の単独ではなく、連動して動くもの。まず脳からの指令が神経に伝わって、背骨が動き、手足が動きます。「膝腰同側」でこの連動を訓練することで、深層部(インナーマッスル)の筋肉が鍛えられ、背骨、骨盤を動かす正しい歩き方ができるようになります。

スポーツの秋、体に負担なく、疲れずに歩けるようになると毎日が楽しいですよ。

※当記事は「DIAMOND online」からの転載記事です。元記事はこちら。

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