東京都教育委員会が、保護者による高圧的な言動や過度な要求への対応を定めたガイドラインを作成した。各地で教員の長時間労働やなり手不足が深刻化し保護者対応が課題となる中、面談時間の目安や弁護士らによる対応を具体的に定めた。ただ問題行動の線引きは難しく、子どものトラブルについて保護者の訴えを排除しないよう求める声も識者や保護者から上がる。【加藤昌平、遠藤龍、柳澤一男】
都教委が2月に定めたのは「学校と家庭・地域とのより良好な関係づくりに係るガイドライン」。日ごろの心得に加えて「社会通念を超える要望等」を受けた場合の対応を示した。
「社会通念を超える」例として挙げたのが①授業の内容、宿題の量、座席など教育活動の細部に対する過剰な干渉や要求②声を荒らげ、執拗(しつよう)で高圧的な主張③長時間の居座りや電話――など。「合理性を欠く不当・過剰な要求」として土下座や過度な謝罪、担任の変更の要求などを挙げた。
いずれについても面談を「平日の放課後、30分までを目安(状況に応じ60分程度まで)」とし、事前に知らせた上でやりとりを録音すると明記した。4回目以降の面談から弁護士や心理士らが同席し、状況に応じて学校の代わりに弁護士が対応する可能性を記した。業務に支障が生じると判断した場合、行為者に退去を要求する。暴行・脅迫などは直ちに警察に通報するとした。
2割が保護者らから疑問感じる言動 事件も
ガイドラインは2026年度から各都立学校で適用。将来的には区市町村教委とも共有する方針という。内容を検討した有識者会議では「思い切った内容も盛り込んでいる。独り歩きすることがないように」という意見も出た。
顧客や取引先の暴言や理不尽な要求から従業員らを守る都のカスタマーハラスメント防止条例が25年4月に施行されたことがガイドライン作りにつながった。加えて、教員が保護者の対応に苦慮しているという背景がある。
25年4月に都教委が公立学校の教職員を対象に実施したアンケートでは、回答した約1万2000人のうち約2割が保護者らから「社会通念から疑問と感じる言動や行為を受けた」とした。また1000人超が「業務が逼迫(ひっぱく)し、時間外労働が増えた」と回答。ある中学校教員は取材に「保護者から夜に話し合う時間を作るように言われたり、夜中に私有携帯に電話がかかってきたりすることもある。対応に追われ、休めない時もある」と明かす。
5月には立川市で、保護者と学校間のトラブルから男性2人が小学校に侵入し教職員5人にけがをさせる事件も起きた。
教職員のなり手不足や離職者の増加も深刻だ。都教委の教員採用は近年、小学校で1倍台の倍率にとどまる。要因の一つとして都教委は、保護者対応で長時間労働になる影響を挙げる。保護者対応をきっかけに休職したケースも報告されており、担当者は「教員の働き方改革は急務だ」と訴える。
相次ぐ休職
課題は全国に共通する。
文部科学省の調査によると、24年度に精神疾患で休職した教職員は全国で7087人に上り、うち6・1%は保護者ら職場外の対人関係が要因になったとされる。文科省は25年9月に教員の働き方改革に関する指針を改定し、保護者の過剰な苦情や不当な要求への対応を「学校以外が担うべき業務」と位置づけた。
各地の教育委員会でも現場向けの指針を設ける動きが見られる。
大分県津久見市教委はカスタマーハラスメント対策のマニュアルを作って25年4月から学校現場で運用している。担当者によると、保護者からの過度な要求によって24年に複数の教師が立て続けに休職したことがマニュアル作りにつながった。
水戸市教委は25年10月、過剰な苦情や不当な要求への対応指針を市立学校長に通知。「理不尽な要求には応じず毅然(きぜん)と対応」することや、「応対は原則1時間以内」などの内容を盛り込んだ。北海道教委は、道カスハラ防止条例に対応させた教員向けガイドラインを5月に制定した。
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