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<器具に頼らず、場所も選ばず、全身の爆発力を引き出す「イクスプローシブ・キャリステニクス」の真髄について>

日本でも定着した「自重トレーニング」は、自らの体重を利用することで体に無理がなく、本当の強さが身に付く筋トレの王道。

その伝道者で元囚人、キャリステニクス研究の第一人者ポール・ウェイドによる『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』(CEメディアハウス)の「CHAPTER2 イクスプローシブ・キャリステニクス──5つの原則──」より一部編集・抜粋。


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瞬発力トレーニングとして効率的であるだけでなく、自重力しか使わないキャリステニクスは、利便性が高いトレーニング法にもなる。

イクスプローシブ6(ジャンプ、パワープッシュアップ、キップアップ、前方回転、後方回転、アップ&オーバー)をやる上で必要になるのは、床、壁、ぶら下がるための水平バーの3つ。特別な器具は必要としない。まさにスパルタ戦士と同じように、体だけを頼りにすることになる。

アクロバットジムでマッスルアップを学ぼうとすると、最初にサポート用のバンドが与えられる。体操選手になろうとすると、フォームラバーマットやブロック、支柱、ケーブルなど、あらゆる種類の器具を使うことになる。

この分野の指導者が、過剰なまでに器具に頼る理由は理解できる。生徒がケガをしないよう保険をかけるのだ。それらの器具が、これでケガをさせることがないという幻想を投影してくれるからだ(まさに幻想だ。規律に則って正しくトレーニングさせなければ、フォームマットの上であっても首の骨が折れる。リスクは、芝生の上で練習するときと変わらない)。

フリップ、キップアップ、マッスルアップなどの離れ業を習得するには、体操クラブに入るか大量の器具が必要になる。そう信じ込んでいる人たちには、わたしがいつも繰り返している話をしなければならない。

キリストが誕生する何千年も前から、わたしたちの先祖は幾千世代にもわたって器具なしでこれらの技術を習得してきた。だから、器具がなくてもマスターできるはずだし、そうすることが生身の体への信頼につながっていく。

スパルタ戦士のようにトレーニングする。それは、一人でトレーニングすることも意味している。このことはわたしにとってとても重要なポイントになる。


わたしはこれまで何人ものすばらしいインストラクターと出会ってきたが、一人でトレーニングするのが常だった。孤独の中に見つける努力と規律が、トレーニング生活を精神的に支えてくれるからだ。

このマニュアルを、パートナーやアシスタントなしでできるドリルで構成したのもそれが理由になっている。器具やパートナーの補助を受けながら瞬発力を開発する、今日の体操技術と違うところはそこにもある。身ひとつで漸進的に進歩していく。それがキャリステニクスだ。

近所の公園にいようと、アフガニスタンの小さな軍事基地にいようと関係ない。ぶら下がるところさえあれば、イクスプローシブ・キャリステニクスの達人になれる。必要なものはすべて揃っている。

全身を対象にトレーニングする

現代世界では手だけをすばやく動かす、あるいは、足だけをすばやく動かす場は限られる。「高速の拳」を持つボクサーが話題になることもあるが、実際に速いのは拳だけではない。ボクサーの速いパンチは、脚、ウエスト、胴部、肩、腕を巻き込んだ全身動作だ。そのすべてが高速でなければスピードは出ない。

蹴りも同じだ。「すばやい脚技」を繰り出すマーシャルアーチストに聞けば、スピードを出すには、ウエストと上半身を速く動かすことが大切だという答えが返ってくるはずだ。

戦いの場。軍事演習の場。スポーツの場。すべての場で動かすのは全身だ。現実世界では、「体の一部分が速い」よりも「全身が速い」ことが大切なのは明白だ。Xboxを超高速でプレイできる指があっても、その指が錆びたガラクタにくっついていたら台無しになる。

一部のアスリートに人気がある、カードを弾いて捕まえたり、肘で払ったコインをすばやくつかんだりするような「スピード」エクササイズもパスした方がいい。ボクサーが好むジャグリングさえ特殊な動作といえる。体のほかの部位にスピードをもたらさないからだ。


確かに、このマニュアルにも、ある部位を中心にワークしているように見えるエクササイズがある──クラップ・プッシュアップは上半身を対象にしているように見えるし、ストレートホップは下肢を対象にしているように見える。

【写真】ストレートホップ を見る

しかし、そのチェーンをステップアップしていくと、クラップ・プッシュアップやポゴ・ジャンプが、全身をユニットとしてワークさせる高度なステップをやる上でのコンディションづくりをしていたことがわかる。

【写真】クラップ・プッシュアップ を見る

パワープッシュアップチェーンは、脚を巻き込むエクササイズにステップアップしていくし、パワージャンプチェーンはすぐに腕とウエストを動員するものになっていく。すべての動作チェーンで同じことが言える。

全身運動は、パワーを統合的に発揮できる体をつくる。わたしたちの体はゲシュタルト──全体は、部分を合計したもの以上になる──的な存在だ。

体の各部位を分離させてパワーをつけようとするアスリートは、その部位をチームとしてワークさせているアスリートよりも速くもパワフルにもなり得ない。世界的なレベルで筋力が強いアスリートたちが体全体を一度にワークさせるトレーニングを好むのは、体というシステムの可能性を最大限に引き出すためだ。

これは筋力トレーニングの世界でよく知られた話であり、パワーとスピードをテーマにしたトレーニングにおいても変わるものではない。

少数エクササイズに集中する

この原則は、ひとつ前の原則「全身を対象にトレーニングする」から導き出されるものだ。全身を対象にトレーニングしていれば、多種類のエクササイズをやる必要がなくなる。あれこれやるのは、時間の無駄だし、不必要な繰り返しになるからだ。

限られた時間の中でパワー、機能的スピード、アジリティ能力を身につけたかったら、ひと握りのエクササイズを使って進歩していくことに固執してほしい。


イクスプローシブ・キャリステニクスを選択すればそれが可能になる。全身の運動能力を余すことなく要求してくる大きな動作をやることになるからだ。劣ったエクササイズに時間を費やしてはならない。

以下の6つの動作をお勧めしたい。


ジャンプ──ジャンプ時の姿勢、瞬発的な跳躍、タック技術、着地技術を学ぶ ・パワープッシュアップ──腕や肩のコンディションを整えるとともに、高速動作への対応を可能にする。上肢の反射神経を開発する ・キップアップ──ウエストに高レベルのスピード/パワーをもたらす。基本的なアジリティ能力を開発する ・前方回転──適切なスピードで前方に回転する技術を身につける ・後方回転──適切なスピードで後方に回転する技術を身につける ・アップアンドオーバー──パワーとスキルを使って体を引き上げる技術を身につける

本書のPART2でこの6種類の動作について詳しく説明することになる。もちろん「6」という数字にこだわる必要はない。前・後ろだけでなく横に向かう回転やツイスト動作を加えることもできる。

しかし、この基本の6動作にある程度習熟した後に追加した方が、ケガをするリスクが低くなる。最初から上で紹介した6エクササイズより多くなると、やり過ぎになったり、集中力が途切れたりする。また、それ以下だと、瞬発力をつける上で、欠ける要素が出てくるだろう。

ポール・ウェイド(PAUL "COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。

 『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』

  ポール・ウェイド [著]/山田 雅久 [訳]
  CEメディアハウス[刊]

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クラップ・プッシュアップ

『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』105頁より
 

ストレートホップ

『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』63頁より
 

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