
Arsenii Palivoda-shutterstock
<いま最も注目を集める、単なる筋トレを超えたサバイバルスキルについて>
日本でも定着した「自重トレーニング」は、自らの体重を利用することで体に無理がなく、本当の強さが身に付く筋トレの王道。
その伝道者で元囚人、キャリステニクス研究の第一人者ポール・ウェイドによる『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』(CEメディアハウス)の「CHAPTER9 マッスルアップ──瞬発力を最適化する技術」より一部編集・抜粋。
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ヒットチャートに見立てて、人気急上昇中の自重力エクササイズをリストアップすると──そのナンバーワンに輝くのは間違いなくマッスルアップになる。
ストリート・キャリステニクスが流行り始めたこと、アル・カバドロのような新世代の自重力マスターがルーチンに採用したことで、マッスルアップに注目が集まっているのだ。
■【写真】マッスルアップ を見る
嬉しいことに、興味を抱いているアスリートの多くがそれをやりたいと考えている! しかし、漸進的に進んでいかない限り、そこに到達するのはごくわずかなエンスージアストだけになるだろう。
この章では、マッスルアップをマスターするための秘密と戦略のすべてをお教えする。ステップアップしていくだけでいい。ほどなくして、体をないがしろにしながら金や権力に血眼になっている「男」たちをバーの上から見下ろせるようになる。それは悪くない気分だ。
マッスルアップとは? ごく簡単に言えば、頭上にあるバーからぶら下がり、弾みをつけて胴体を引き上げ、腕を支柱にして上半身をバーの上に押し上げるスーパーエクササイズだ。
「マッスルアップ」という呼称はとても新しい。この用語を聞いても、10年前のキャリステニクス・アスリートたちの99%には何のことやらわからなかったはずだ。
40年以上にわたって自重力トレーニングに勤しんできたわたしでさえ、「マッスルアップ」という用語を最初に聞いたのは2006年のことだ。監獄内での呼び名は、セントリー(見張り番)プルアップだった──
「見張り番」と呼ばれるようになったのは、何かの上に体を引き上げ、遠くを見張る姿を連想させるからだろう。もちろん、体操選手はこのテクニックを知っている──
それは、バーや吊り輪などのハンギング系のルーチンを始めるにあたって、彼らが最初にやる動作のひとつでもある。
マッスルアップの利点
マッスルアップが流行し始めたのはごく最近だが、この動作自体は新しいものではない。それどころか、霊長類の祖先まで遡ることができるとても古いものだ。
動物園に行ってチンパンジーなどの類人猿を観察していれば、枝を使ってマッスルアップする姿を見ることができるかもしれない。樹上を移動することで生き延び、そこで進化した種には、水平に伸びた枝の上に自分を引き上げる能力が必要だった。
彼らはマッスルアップかそのバリエーションを頻繁にやっていた。わたしたちヒトもまた、そういった種のひとつに分類される。
現代へとコマを早送りしても、この「引き上げて乗り越える」動作は、依然としてサバイバルツールであり続けている。わたしには、子どもの頃に追いかけられて、壁をよじ登って逃げた経験が何度もある。あなたにもあるかもしれない。
そこでよじ登れなかったらどうなるか? 脚や腰をつかまれるか、さらに悪いことが起こるだろう。
この理由から、軍事訓練場には必ず壁がある──そして、トレーニーによっては、そこがコース中もっとも過酷なエリアになる。
警官や消防士にも「体を引き上げて乗り越える」技術が欠かせない。障害物を乗り越える。これこそ、本質的な意味でのサバイバルスキルだ。バーベルカールやベンチプレスをどれだけやっても、生き残る術は学べない。
身体開発システムが始まって以来、マッスルアップはカリキュラムの中でも重要な位置を占めてきた。それは、古代ギリシャ人やローマ人にとっても、ジョルジュ・エベルやフランシスコ・アモロスといった初期の体育教育システムの開拓者たちにとっても同じだった。
もちろん、ボディビルディングが王座に就いたことで、マッスルアップも滅ぶ運命を免れなかった。そして、腕を使って何ができるかではなく、腕周りのサイズばかりが男たちの関心事になってしまった(その罠に落ちないようにしてほしい)。
マッスルアップは機能的な体をつくる。なぜか?
パワーとスピードを授けてくれるからだ。また、筋力をつくり、体全体のコンディションを整えるという意味でもユニークなエクササイズになる。
筋力という意味では、まず、バーの上に向かうための瞬発的な「プル」が必要になる。その直後に、バーを乗り越えるための瞬発的な「プッシュ」が必要になる。プルが背中と上腕二頭筋を鍛え、プッシュが胸と上腕三頭筋と肩を鍛える。
つまりは上半身全体に大きな負荷がかかる。バーをずっと握っているのでグリップも強くなる。キッピングするために、鋼鉄製の腹筋と運動能力に優れた後部チェーンが求められるし、体をバーに近づけるために股関節を押す力も必要になる。
そこに、筋肉の協働力、タイミング、全身の腱の強さが加わらなければマッスルアップは完成しない。
その気になれば、プルアップやプッシュアップを一日中やっていられる筋力を持つ男がいた。
しかし、全身を同期させる技術──Xファクター──を知らずにマッスルアップに手を出したため、プライドをかなり傷つけられる結果が待っていた。
圧縮された時間内で瞬発力を生成する秘訣──それがこのXファクターだ。チェーンの中でこのXファクターを学ぶことになるが、筋力があるだけではダメなのだ。
知的なアプローチが必要になる。コーヒーでも飲んで、心を鎮めてから先に進んでほしい。
ポール・ウェイド(PAUL "COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。
『プリズナートレーニング 実戦!!! スピード&瞬発力編 爆発的な強さを手に入れる無敵の自重筋トレ』
ポール・ウェイド [著]/山田 雅久 [訳]
CEメディアハウス[刊]
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マッスルアップのやり方
・頭上にある水平バーをつかむ。グリップをほぼ肩幅に取り、肩を強く引き下げる。
・フォールス・グリップ─親指をバーの上に置く握り方にする。
・スイングキップ(ステップ1)を使って「引く」前の弾みをつける。
・バックスイングの頂点に近づいたら、両腕を後方にすばやく動かす。
・同時に、臀部と後部チェーンを固くし、上腹部をバーの方へ押し込む。
・胴部をバーに乗せながら、肘を強く引き戻し続ける。脚を持ち上げることがこれを助ける。
・プルオーバーの姿勢に達したら、手首を回転させる。頭と胸はバーを越えていて、バーは上腹部の下にある。両脚は持ち上がっている。また、前腕がほぼ垂直の支柱として機能している。
・腕をまっすぐにすることで体を「プレス」する。「プレス」中に、遠くまで見渡すような感じで首を伸ばすと助けになる。トップ位置で静止する。
エクササイズを透視する
ほかの筋力エクササイズと違い、マッスルアップには、強い「プル」と、強い「プッシュ」が含まれている。
そこに、スピード、パワー、バランス、タイミング、全身の調整能力、鉄のようなミッドセクションが加わらなければ、この離れ業は完成しない。
マスターした者が自重力世界で嫉妬の対象になるのは、不思議でもなんでもないことだ。
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